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第3話②
「淳、次こっち頼む」
「はい!!」
城崎さん効果もありMILKEYは大盛況だ。
「ありがとうございましたー!」
アルバイト自体が初めてな俺は、側から見てちょっと恥ずかしいくらいわたわたすることもあるが、今のところ大きなハプニングなくこなせている。
「うーん、疲れたー!」
「お疲れ。」
お昼のピークが過ぎ一段落したので休憩室でくつろいでいると、カズさんが労いの言葉と共にかき氷を出してくれる。
「やった!ありがとうございます。」
くーっ、おいしい。
口の中で溶ける冷たい氷が、今日の疲れを癒してくれる。
「淳達がいてくれて心強いよ。覚えも早いし安心して任せられる。」
「いえそんな、まだ足引っ張ってばっかりで…ぅえっ!?」
「ほんとにね。」
急にスプーンを奪われたと思ったら、城崎さんが業務を終えて戻って来ていた。
いつの間にか俺のかき氷を掬って食べている。
「城崎さん…お疲れ様です。」
「おー彼方もありがとうな。」
「カッさん、俺にもかき氷。」
城崎さんは俺の隣に腰掛け、カズさんにかき氷を強請る。
同じもの頼むなら、何故俺のを食べるんだ。
貴重なかき氷が減るだろ…
カズさんは、「はいはい、ちょい待ち。」と言ってかき氷を作るため厨房の方へ去って行った。
「あのー城崎さん?」
城崎さんは、まだ俺のかき氷を奪って食べている。
「なに?」
「いや、かき氷…返してもらえませんかね?」
俺が声をかけると何をいってるんだこいつ、みたいな目で見てくる。
いやいや、こっちのセリフです!
「今日も何回も助けてあげたでしょ。今日も。何回も。」
「くっ…」
"今日も"と"何回も"という部分を強調してくる。
助けてあげたというのは、店の業務のことだ。アルバイト未経験の俺は、何かと足を引っ張ってしまうことが多い。ミスをしそうになることもあったが、城崎さんが度々フォローをしてくれた。
「何やってるの、バカなの」と毒を吐きながらだけど。
そう、だから大きなハプニングなくこなせているのは城崎さんのおかげなのである。
「いつも…ありがとうございます…」
「ほんと、2人分働いてるようなもんだよ。」
「ゔっ、すみません。ほんとに感謝しています。でもそろそろ返してもらえないでしょうか。」
城崎さんは「はいはい」といいながらようやく返してくれた。4分の1くらいしか食べていなかったのにもう半分程になっている。
俺のかき氷が…
少ししょぼくれながら再びかき氷を食べ始める。
城崎さんは何食わぬ顔でスマホをいじっている。
貢ぎ物でも用意したほうが良いのだろうか。
ちょっとの浪費よりもカズさんの作ったスイーツを奪われるほうがつらい。
でもそれって完全に子分だよな。それは嫌だ。
とりあえず取られる前に食べないと。
慌てて食べていると、横から「別にもう食べないよ」と呆れた声で言われる。
「お待たせー」
俺がかき氷をかきこんでいると、カズさんが城崎さんの分を持ってきてくれた。
「ありがと。」
「じゃあ、俺はまた仕事に戻るな。今日はお疲れ。また明日からもよろしく。」
「はい!お疲れ様です!」
「またね、カッさん。」
机にかき氷を置くと、カズさんはまたすぐに仕事に戻って行った。
城崎さんと俺は臨時アルバイトのためカズさんや他のアルバイトの人よりはやくあがる。
そのため、業務後はこうして休憩室で2人になりそのまま一緒に帰ることが多い。
かき氷を食べ終えた俺は、わざと恨めしい顔で城崎さんとかき氷を見つめる。
俺も奪って食べてやろうか。
でもそんなことしたら後が怖いな。
「はい、淳。」
「え?」
じっと見つめていると、不意に城崎さんがかき氷を掬ったスプーンを差し出してくる。
え?どういう状況?
くれるんですか?
しかもこれって俗にいうあーんの体勢では?
どうやって食べるの?もらっていいの?
「あーん?」
俺が困惑していると、城崎さんが小首を傾げながら定番のセリフを吐いてくる。
「…っっ!??」
この絵面はやばい。
イケメンがこんなことをしてはいけない。
女子なら気絶してる。
でも俺男だよ?
男が男にあーんしてるところなんて誰も見たくないでしょ。
なのに何で俺はドキドキしてるんだ…
「…はやくしなよ。」
「…っ、あの俺っ、自分で食べれるんでっ」
「はやく。」
どうにか断ろうとするが、有無を言わさず促される。
恥ずかしい。
恥ずかしいが、仕方ない。
ちょっと黒いオーラでてきてるし。
「…あー…ん…」
半ばやけくそで一口食べさせてもらう。
恥ずかしくて目を合わせられない俺に対し、城崎さんは満足気だ。
「はい、もう一口。」
「えっ!?もういいですよっ」
「だめ。さっき食べちゃったから返さないとね。」
もういいといっているのに「はやく」と2口目を強要される。
渋々言われるがまま口を開く。
「…ふふっ」
「…なに笑ってるんですか…」
「んーなんかペットみたいで。」
…めちゃくちゃ弄ばれているな。
腹立つなーもう。
悔しくて城崎さんをジト目で睨む。
「ちょっとかわいいかも。」
しかし城崎さんは、構わず笑顔で爆弾発言をしてくる。
「…へっ!?」
何この人。
ほんと怖いな。
俺で遊び過ぎだろ。
大体男にかわいいってうれしくないし…
なんで俺はまたドキドキしてるんだよっ!
顔を白黒とさせている俺の横で、城崎さんは楽しそうにかき氷をほぐしている。
「はい、あーん」
「やっぱりまだやるんですかっ!?」
その後もあーんのやり取りは続き、半分程なくなったところで終わった。
「俺が食べたのこれくらいだったよね?」
「…ご丁寧に、ありがとうございます…」
回数としてはそれ程多いわけではなかったが、変に疲れてふーっと深呼吸をする。
やっと終わった…
「城崎さん、食べ終わったら帰りましょ…っ!?」
気持ちを切り替え、時間を確認しようとスマホに手を伸ばした時、頬に生温かい感触がする。
驚いて感触があったほうを振り返ると、唇を舌で舐めている城崎さんと目があった。
さっきの感触は城崎さんの舌であったのだと認識し、顔が熱くなる。
「…なっ、なっ!?」
「おいしかった?」
恐らく茹でダコのようになっている俺が抗議をすると、今度は小悪魔のような笑みで小首を傾げてくる。
「〜っ」
とんでもないっ!
とんでもないよっ、この人!!
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