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第3話③
アルバイトを始めてから数日経ち、大分業務に慣れてきた。
作業も以前より速くなり、城崎さんに助けてもらう頻度は減った。
「ミルクティーと抹茶ラテですね。少々お待ち下さいっ!」
「ねぇねぇ、あの人かっこいい!」
女性客のほとんどが城崎さんしか見ていないのが、少々癪だが。
今日は夏祭りだ。
普段より浴衣姿の女性客が多く、店内は華やかだ。
浴衣姿の女性は、普段着の時よりも3割増しは可愛く見えると思う。
俺も彼女がいたら浴衣デートとかしてるのかな、とか頭の中でシミュレーションしてみるも経験がなく想像に限界があるのが悲しい。
城崎さんは浴衣デートも経験済みなのかな。
浴衣姿、死ぬほど似合うんだろうな。
そんな城崎さんは、ちょうど演奏の時間であり、ピアノ椅子に座り準備をしている。
城崎さんのレパートリーは豊富だ。
日によって曲目を変えているのはもちろん、時にはお客さんのリクエストに答えることもある。
演奏会を行う度にファンが増えており、俺もその内の1人だ。
城崎さんは、ピアノを弾く前にいつも行う癖のようなものがある。
1音鳴らして、目を閉じる。
一呼吸置き、集中力を高めてから演奏する。
これは俺の姉ちゃんもしていた。
姉ちゃんがそう教えたのかな?
「これ3番テーブルね。」
「はいっ!」
ついつい聞き入ってしまいそうになるが、城崎さんが演奏している間はホールが1人抜けている状態だ。
仕事に集中しないと。
俺は、はりきって料理をテーブルに運ぶ。
忙しいと時間が過ぎるのはあっという間だ。
今日の城崎さんの演奏も大好評だった。
またファンが増えたに違いない。
「お疲れ様です!」
いつものごとく俺と城崎さんは一足早く業務を終え、控室に入る。
「あいででで、にゃにすりゅんでひゅか」
「…疲れた…」
部屋に入ると城崎さんに両頬を引っ張られる。
女性客にエネルギーを吸いとられると、たまにこうして俺の頬に八つ当たりしてくる。
とんだとばっちりだ。
最近、城崎さんは俺のことをペットのように扱う。
「城崎さん、帰りまひゅよ…」
「…」
今日はダメージが大きかったのか、いつもより長く頬を引っ張られる。
この状態だとなかなか帰りの支度ができないから困る。
「淳、彼方!今日は19:00に店集合な。」
「はい!また後で。」
八つ当たりモードの城崎さんからなんとか解放され、カズさんと今日の約束をして店を出る。
今日は夏祭りのため、夜に花火が上がる。
カズさんの提案で、業務を少し早く切り上げてMILKEYのスタッフみんなで見に行くことになったのだ。
店から花火会場は近いため、まだ業務のあるスタッフの人達に合わせ閉店してから店でおちあう。
俺と城崎さんはまだ時間があるため、1度家へ帰ることになった。
帰り道の途中まで一緒に会話しながら歩く。
「城崎さん、こういうの参加するんですね?」
「お世話になった人との付き合いには参加するよ。当然でしょ。」
自由気ままなイメージの強い城崎さんが参加するとは思っていなかったので尋ねると、意外な返事が返ってきた。
見た目に反して、付き合いは大事にするタイプらしい。
城崎さんとまた後で、と別れ自宅で身体を休める。
花火楽しみだな。
毎年会場までは行かなくても遠目に眺めたりして、必ず夏は花火を見ている。
そういえば姉ちゃんも花火が好きで、昔は一緒に見に行ってたな。
花火が上がる度に2人ではしゃいだりして。
楽しかった、な…
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