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第4話②
「久しぶりだね。美弥子ちゃん。」
「ほんと久しぶり!このお店変わってないね!」
トイレから戻ってくると、姉ちゃんは俺の席でカズさんと談笑していた。
隣に城崎さんもいるが、黙ってアイスコーヒーを飲んでいる。
姉ちゃんは気にせず話してるけど…大丈夫なのか?この状況。
もしかしたら俺がトイレに行っている間に少し話したのかもしれないけど。
この前の城崎さんが蘇えってきて、心配になる。
俺は様子を伺いながら姉ちゃんの隣に座る。
姉ちゃんはしばらくカズさんと話していたが、不意に城崎さんの方を見た。
姉ちゃんと城崎さんが見つめ合う形になり、どきりとする。
「…彼方。」
「…。」
無言の間。
これは…もしかしてまずい空気なんじゃ…?
修羅場とかになったりする…?
いや、そもそもどういう関係なのかよく分からないけどさ。
とりあえず俺が何か話すべき?
「あ「彼方ー!!久しぶり!!またイケメンになって!日本の大学楽しんでる!?急に日本に行くっていうからびっくりしたよー!!」
「…うるさい。痛い。」
咄嗟に声を掛けようとすると、姉ちゃんが嵐のように話し出し、城崎さんにぎゅうぎゅうと抱きついた。
いや、締めつけたの方が正しいのか?
城崎さんが潰れそうだ。
「元気にしてた?ちゃんとご飯食べてる?友達できた?」
「…食べてるし友達もいるよ。小学生じゃないんだから。」
締め付けから解放されたかと思うと、今度は頭をぐりぐりと撫で回され質問責めに合っている。
姉ちゃんは昔から騒がしいから。
お気の毒に。
「美弥子こそどうなの?仕事うまくいってるの?」
「お陰様でね。毎日忙しく働かせてもらってるわ。」
気まずい雰囲気になるのかと思ったらそんなことはなく、むしろ久しぶりに会った兄弟みたいに見えた。
本当の弟は俺なんだけどね。
どちらかというと今1番蚊帳の外ですよ。俺。
仲良く会話する2人にひとまず安心し、隣から眺める。
ころころと表情が変わる姉ちゃんに基本ポーカーフェイスの城崎さん。
でも姉ちゃんを見る目は優しい。
俺…あの目好きだ。…って。なに言ってんだ。
あ、呆れた目した。
…あ。…笑った…。
ーズキンー
「…っ…」
まただ。
胸を針で刺されるような痛み。
初めて感じた日から、日に日に強くなっている。
いつも城崎さんのことを考えている時だ。
城崎さんの姉ちゃんを見る顔…
愛おしむような…
まるで恋人をみるような…
「…淳?」
「…えっ?なに、姉ちゃん?」
姉ちゃんの声で我に返る。
姉ちゃんと城崎さんが不思議そうに俺の顔を見ていた。
「どうしたの?難しい顔して。」
「な、なんでもない!意外に疲れてたのかな?なんてっ、ははっ!…そんなことより、姉ちゃん何で帰ってくること連絡しないんだよ?」
やばい、ぼうっとしてた。
誤魔化すように話題を切り替える。
でも気になっていたのは本当だ。
連絡もなく、急に帰ってきたらびっくりする。
「連絡したわよ?」
え?俺気が付かなかったのかな?
当然のように言われ、慌ててメッセージアプリを開く。
姉ちゃんの名前の横に数字が表示されており、メールが来ていたことが分かる。
やべ、来てたのか。
画面をタップしメールを開くと、棒人間が歩いているスタンプが1つ。
「…分かるかっ!!」
「えー?お母さんにも送ったわよ?」
しかもこのスタンプが届いたのは今日の15時頃だ。もっとはやくメールしろよっ。しかもスタンプかよっ。
絶対、母さん気づいてないぞ。
連絡してあげないと。
言葉足らずのメッセージの意図を知らせるべく母さんにメールを送る。
「…とりあえず、帰りましょうか。お姉サマ…」
「そうね。お母さんとお父さんにもはやく会いたいし。晩御飯楽しみねー!」
いや、多分母さんは今の俺のメールで初めて知ったから。
晩御飯も何も姉ちゃんカウントされてないからね。
思い立ったら即行動できるのはいいところだと思うけど、時々困りものだ。
「お邪魔しましたっ」
姉ちゃんのキャリーケースを持ち、2人に挨拶する。
「家族との時間、楽しんでね」
「…」
笑顔のカズさんと憐れむような顔の城崎さんに見送られ、俺は姉ちゃんを引っ張って店を出た。
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