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第4話③

家に帰ると、案の定母さんは姉ちゃんのメールに気付いておらず、帰る時くらいちゃんと事前に連絡しなさい、と怒られていた。 予想通りだ。 母さんも大変だな。 それでも俺からの連絡を受けてから、姉ちゃんの好物を作ろうと支度していたようでキッチンから食欲をそそる良い匂いがした。 俺と姉ちゃんも荷物を部屋に置いてから、箸や器の準備を手伝う。 食事の準備が整った頃にちょうど父さんも帰ってきて、久しぶりに家族4人揃っての食事となった。 話の内容は当然、姉ちゃんのニューヨークでの生活についてが中心だった。 初めは父さんや母さんが仕事は上手くいっているか、向こうで困ったことはなかったかなどと聞いていたが、一通り話が一段落したところで姉ちゃんからみんなに話があるの、と切り出した。 「私、結婚しようと思ってるの」 「え?」 あら、そうなの?と母さんは後ろに花が散 っているのが見えそうなくらいうきうきしながら相手の方は?と話の続きを促す。父さんはびっくりして何も言わなかったが、しばらくしてそうか…と寂しそうな声で言ったのが聞こえた。 父さん…切ないな… 「職場で知り合った日本の人でね。優しくていい人よ。また家にも連れてくるね。」 「へぇ…姉ちゃん、おめでとう」 相手の人に会ったことはなく、話を聞くのも初めてだが姉ちゃんがすごく幸せそうな顔で話すのだから良い人なんだろう。 まだ実感もわかないが、祝福の言葉をかける。 一瞬、城崎さんのことが頭によぎった。 城崎さんは、このこと知ってるのかな? 聞いてみようかと思ったが、母さんがひっきりなしに話しかけているので聞けないまま部屋へ戻った。 椅子に座り携帯を確認すると、祐介からメールが来ていた。 明日は、バイト終わりに会うことになっている。内容は、時間と待ち合わせ場所の相談だ。 何度かやりとりした後、祐介から最終的な時間と場所が送られてきて、それに了解と返信する。 携帯を机に置くと、筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出す。 さて、忘れていたけど宿題をしないといけない.. 溜息をつきたくなるが、気をとりなおして問題集を開く。 … …… 「う〜んっ…」 黙々と問題を解くこと1時間半。 まぁまぁ進んだと思う。 明日はここからここまでするか、とページをパラパラとめくっているとドアをノックする音がした。 「淳、今いい?」 「姉ちゃん?いいよ。」 ドアを開けると、姉ちゃんが何やら物を抱えて入ってきた。 ニューヨークのお土産を持ってきてくれたらしい。これがお菓子で、これがポーチで、と1つ1つ説明しながら机に並べている。 「この間、彼方達と花火に行ったんだってね。」 「あ、うん。きれいだったよ。」 あ、このお菓子。前もくれたやつだ。 美味しいんだよな。 並べてくれたお土産を手に取りながら、先日行ったお祭りの話をする。 MILKEYのみんなで行ったこと、 人がすごく多かったこと、 城崎さんが俺のたこ焼きを半分も食べてしまったこと… 「それでさー…?何?」 あの日のことを思いつくままに話していると、姉ちゃんが俺を見て笑っていた。 「淳と彼方が仲良くしてるみたいで良かった。」 「えー…仲良いっていうのかな?」 仲が良いと言われ、ちょっと照れくさくなる。 実際仲が良いかは分からないが、顔を合わせると話すようにはなった。 「そういえば姉ちゃん、城崎さんに俺の話してたんだね?」 「よく話したわよ。小さい頃のドジした話とか。」 やめろよ… 今でこそ弱味を握られているのに。 せっかくならもっとカッコいい話しろよ。 ないけど。 「城崎さんってどんな人だったの?」 相手の弱味を探す訳ではないが、前々から興味があったことを聞いてみる。 「彼方は…無口でいつも寂しそうな顔をする子だった。初めて会った時、何も話してくれなかったわ。周りに興味がないというよりは…自分から踏み出すのを怖がってるような感じだった。」 あの城崎さんが? しょっちゅう毒を吐いてちょっかいをだしてくる今の城崎さんからはあんまり想像できない。 「なんか反対に燃えてきてね、絶対に笑わせてやる、と思ってあっちこっち連れ回したり、ピアノを一緒に触ったりして。その内に少しずつ笑って話もしてくれるようになったの」 今ではずけずけ言うようになったけどね、と愚痴をつけたす。 「そうなんだ…」 姉ちゃんが城崎さんの冷たくなっていた心を開いたんだ。 寂しい時にそばに居てくれて、笑顔にさせてくれて… 城崎さんの言動と照らし合わせていく内に、城崎さんの姉ちゃんへの気持ちが確信へと近づいていく。 それと同時に、胸が苦しくなる。 「城崎さんに結婚のことは話したの?」 「まだ話してない。でも相手の人とは一度偶然会ったことがあるわ。」 え? 会った? じゃあ、城崎さんは姉ちゃんに付き合っている人がいることを知ってたんだ。 そう思った途端、余計に胸が苦しくなった。 「いつ…話すの?」 「明日話そうと思ってる。」 明日… 姉ちゃんの言葉を聞いてどうにも不安な気持ちになる。 だって… 姉ちゃんの話をする時の悲しそうな背中 姉ちゃんに向ける優しい顔 姉ちゃんを見る目… あれは…

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