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第4話④

昨日姉ちゃんと話してから、城崎さんのことが気がかりで、もやもやとした気持ちになる。 アルバイト中なのに、業務以外のことを考えてしまう。 城崎さんを見ると、時々女性客にスマイルをサービスしながらテキパキと仕事をこなしている。 姉ちゃんの結婚を知ったら、城崎さんはどんな顔をするのかな…? 「なにぼーっとしてるの」 「あたっ、すみません…」 仕事に集中できていない俺に気付き、城崎さんがメニューで軽く俺の頭を叩いた。城崎さんの表情を見ると、いつもの呆れ顔だ。 呆れ顔が見慣れてるって、俺はどんだけ普段呆れられてるんだよ。 「これ運んで」 「はい!」 お盆ごとドリンクを渡され、言われた通りにそれをテーブルへ運ぶ。 城崎さんから直接姉ちゃんへの気持ちを聞いた訳じゃないけど… 城崎さんは姉ちゃんの言葉に傷付く気がする。 城崎さんの悲しい顔…見たくないな… 「おい」 「うぇっ?いひぇひぇひぇひぇ…」 「ぼけっとしないで手伝え」 「す、すみまひぇん…」 勝手に城崎さんの心配をしてたら、いい加減にしろと頬を引っ張られた。 語気がやや強かったのでまずい、と思い慌てて片付けをする城崎さんを手伝う。 相変わらず力強いよ。 絶対赤くなってる。 悪いのは俺だけどさ。 俺と城崎さんの業務が終わる少し前に姉ちゃんが店に来た。 城崎さんは着替えが終わるとすぐに帰ろうとしていたが、姉ちゃんにお茶を誘われると文句をいいながらも座って飲み物を注文していた。 嫌そうにしながらも姉ちゃんの話に付き合っている。 やっぱり一緒にいたいんだろうな。 俺も城崎さんと一緒だと嬉しいし…って!! なに考えてるんだ!?俺!? 怪しい方向へ向かいそうになる思考を振り切るように頭をぶんぶんと振る。 そうだ。祐介に連絡しないと。 違うことを考えよう、とスマホのロック画面を解除する。 祐介へのメールを打ちながら、もう一度城崎さん達の方を振り返る。 まだ結婚の話はしてないみたいだ。 2人のことが少し気になったが、祐介を待たせてはいけないと思い、店を出た。 … …… 「面白かったなー!」 「そうだな。」 祐介と今人気のヒーロー映画を見た後、近くのファーストフード店であれやこれやと感想を言い合う。 言い合うといっても大半は祐介が喋ってるけど。 腕につけている時計で時間を確認する。 19時… もう城崎さん帰ったかな。 姉ちゃん、話したのかな…。 祐介の話をうん、うんと聞きながらも別の考えが頭によぎる。 「なー祐介。」 「うん?」 映画の話に熱が入ってジェスチャーまで入り出した祐介が、俺の声で我に返ったように此方を見る。 「好きな人からいきなり別の人と結婚するっていわれたらどんな気持ち?」 「…は?…そりゃ、めちゃくちゃショックだろ。」 「だよな〜…」 誰だってへこむよなぁ。 予想通りの返答に、自分のことじゃないのに気分が沈む。 ジュースをストローでズズズと吸う。 祐介は、突然の意味のわからない質問に、なにを急にいってるんだという顔をしている。 「なに、お前歳上の好きな人でもできたの?」 「ぇっ…!?いやいや、俺じゃなくて知り合いの人の話っ!!」 しばらく怪訝そうな顔をしていた祐介が手をポンと叩き、あての外れた発言をしてきた。 俺は、急な祐介の言葉にジュースを吹き出しそうになる。 いや、俺は何に動揺してるんだ。 城崎さんと姉ちゃんの話なのに。 「ほんとか〜?」 「ほ、ほんとだよっ!」 祐介は俺の反応を見て、何か勘違いをしたらしい。 ニヤニヤする祐介と目を合わせないようにして、ハンバーガーを頬張る。 本当に俺は関係ないのに。 一瞬、城崎さんのことを考えてしまった。 今日一日、城崎さんのことを考えてたから頭が混乱してるのか? 動揺していたせいか、いつもより食べるのが早かった。 「あらあら大丈夫か〜?淳くん??」 俺とは対照的に楽しそうな祐介はその後もずっとニヤニヤ顔で、帰り道で別れるまでからかわれる羽目になった。 祐介と別れて、家までの道を1人で歩く。 日は落ち、街灯が灯っている。 もう帰っているだろうが、気になってMILKEYがある道を通って帰る。 さすがにいないよな。 窓を覗くようにしながら店の前を横切る。 中にお客さんらしき人がいるが、はっきりとは見えない。 うーん、よく分からないないな…帰るか。 今の俺、下手したら不審者と思われそうだし。 「…淳?」 わざわざ中に入って確かめるのも変なので、そのまま帰ろうとしていると、後ろから呼び止められた。 「カズさん!」 そこにいたのは、カズさんだった。 業務中に外に出てくるなんて、もしかして俺結構目立ってたかな。 「どうしたんですか?」 「ははっ。いやぁ、人影が見えたから、彼方かと思って。」 「城崎さん?…あ。それ…?」 カズさんの手元を見るとスマートフォンが握られていた。カバーはシンプルだが、リングが付いている。見覚えのあるデザインだ。 「彼方が忘れていってしまってな。困ると思うから仕事が終わったら届けに行こうかと思ってるんだけど。」 城崎さんが、忘れ物? しかもスマホだなんて…珍しいな。 急いで帰っていったのかな? 「あ、俺家近いんで届けましょうか?」 カズさんの店はまだ営業中だ。 閉店後も片付けがあるし午前中からずっと働いて疲れているはずだ。 俺はさっきまで遊んでいただけだし、帰りに少し寄り道をするくらい苦じゃない。 それに城崎さんのことも気になる。 「え?でももう夜遅いしなぁ…」 「大丈夫ですよ!城崎さんの家歩いて10分もかからないですし。俺、あの道よく通ってて慣れてますから。」 カズさんは、申し訳ない顔をしながらもじゃぁ、お願いしていいかな?と俺にスマートフォンを手渡す。 丁寧に住所も教えてくれた。 城崎さんの家自体には行ったことがないけど、通りすがりに外から見たことはある。 恐らく、迷わず行けるはずだ。 母さんへ城崎さんの家に寄ると連絡を入れる。 本当に気をつけて、なにかあったら連絡してと念を押すカズさんに、大丈夫だよ女の子じゃないんだからと返して、城崎さんの家へと向かった。

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