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第5話①
夏休みが終わり、また学校が始まった。
宿題は、最後の最後の1週間で泣きながらやって何とか終わった。
城崎さんにはいつもの毒舌で「ほんと計画性ないよね」と貶されたけど、夏休み最終日は自分へのご褒美と言い訳をつけてMILKEYで1番高いケーキを頼んだ。
2学期初日は、祐介や稜と久しぶりに再会して夏休みの話に花が咲いた。
祐介は家族で海に行ったらしく、真っ黒に日焼けしていた。
稜様は男か女かよく分からないけど、話の中でとにかく色んな人の名前がでてきた。祐介がしきりにそれ男!?男!?って聞いてたけど、全無視だ。
「淳の姉ちゃん帰ってきてるのか」
「うん。長期の休みをとったからあと1週間日本にいるみたい。」
「すげぇなぁ〜海外。」
俺の姉ちゃんは、まだ日本にいて友達と遊びに行ったり買い物に行ったりと休みを満喫している。
城崎さんとも何度か店で会っているが、思っていた程気まずい雰囲気にはならなかった。
あの日から、そこまで落ち込んでいる様子もなくてほっとしている。
まぁ、俺が気付いてないだけかもしれないけど。
「それはそうとさぁ〜…淳よ」
「…?な、なんだよ?」
急に祐介が思い出したかのようにニヤニヤしてこっちを見てくる。
嫌な予感。
この顔をしている時は、ろくなことがない。
「片思い中の子とは進展あった?」
予感的中。
「はっ!?い、いやいや片思いなんてしてないしっ!!」
してるけど。
まさか相手が男だなんていえない。
口では否定するも思わず顔が赤くなる。
「顔、赤いですけど〜?」
「ち、違うって!」
「淳に…好きな人…」
祐介からからかわれる上に綾様まで面白いことを知った、みたいな顔をしてくる。
祐介…やっぱり覚えてたか。
祐介に相談したのは間違いだったかもしれない。
城崎さんと俺の関係は、特に変わりない、と思う。
会えば毒舌を吐かれるし、何なら俺への扱いは雑さに拍車がかかったくらいだ。
ただ1つ、最近気になっていることはある。
俺が困っていること。
それは、城崎さんの俺に対する距離感が前よりも近くなったことだ。
後ろから身体を預けるように体重をかけてきたり、俺の頭に顎を乗せてきたり…
城崎さんは平然としているが、俺からしたら気が気じゃない。
身体が密着する度に、心臓が爆発しそうだ。
「俺の話はもういいだろっ。祐介こそ、そういう相手いないの?」
からかいのターゲットから逃れるため、祐介にお返しとばかりに聞き返す。
俺ばっかりいじられては悔しい。
それに完全に俺の片思いなのだから、進展なんてしない。
「俺?俺は…もちろん綾ちゃんっ!」
「…そうだったね。」
当然とでもいうように返されて、何だか負けた気持ちになる。
そうだ、祐介はそういう奴だった。
「ごめんなさい。」
「綾ちゃん、はやいっ!でもそんなところも好きっ!」
祐介と綾様のいつもの掛け合いが始まって片思いトークは終わった。
本気なのかどうかは分からないが、祐介の率直さは見習いたい部分もある。
毎回玉砕してるけどね。
もし俺が城崎さんに気持ちを伝えたらどんな顔するのかな、なんて。
午前中で学校が終わり、家へ帰る。
リビングに入ると、姉ちゃんがテレビを見ていた。俺も着替えを済ませてから、お茶を片手にリビングでくつろぐ。
「あ、そうだ淳。これいらない?」
「なに?」
一緒になってテレビを見ていると、姉ちゃんが俺に2枚の紙切れを渡してきた。
なにかのチケットみたいだ。
そこにはイルカやペンギンの写真がプリントされている。
「これって、この間できたばっかりの?」
「そう。水族館のチケット。もらったんだけど、期限までに行ける日がなくて。淳、彼女とでも行ってきたら?」
「…」
彼女なんていませんよ、お姉様。
でもこの水族館はちょっと行ってみたかったところだ。
ありがたく受け取って、誰を誘おうかと考える。
「確か彼方も結構水族館好きよ。」
「…へぇ」
城崎さんが水族館に?
意外だ。
城崎さんと水族館がミスマッチで、想像してちょっと笑ってしまう。
城崎さんに渡したら喜ぶかな?
でもチケットは2枚。
2人っきりってことだよな。
2人きり…。
……。
…祐介、誘ってみようかな。
城崎さんが水族館に行く姿を見たい気持ちもあるが、誘う勇気はなくて明日祐介の都合を聞いてみようと鞄のポケットにしまった。
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