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第6話②
カズさんの視線の先を振り返ると、入り口に城崎さんが立っていた。
しかも俺を睨みつけるように。
え、こわ。
機嫌悪い?
俺なんかした?
騒がしかったとか?
「あ、城崎さんも来たんですね…?」
視線に耐えられず、思いつくままに話をする。
「…そうだけど。」
「偶然ですねっ。練習お疲れ様です。」
「……。」
返事はあったものの、会話は続かず相変わらず睨みつけられたままだ。
「えーと…」
なんなんだこれ。
どうしよう。
あー、うーと唸りながら話題を考えるも浮かばず目が泳ぐ。
「おっ!もしかしてこの人が噂の城崎さん?初めましてっ!俺、淳の友達の祐介です!淳がいつも世話になってます!」
そんな空気にも動じず、いや気付いていないのか祐介が俺の肩を掴んだまま自己紹介を始めた。
「おい、祐介っ。」
ぐいぐい城崎さんに話しかける祐介を止めようとするが、祐介はなんだよ?と気にしている様子がない。
「…どうも。」
城崎さんは祐介ににこりと笑った、けど口角がちょっと上がってるだけで顔は笑ってない。
…ひっ!
火に油を注いだ?
祐介は城崎さんの表情に全く気が付いておらず、にこにことしている。
祐介。
お前のそういうところ良いと思うけど、今じゃないっ。
祐介と同じく初対面の稜様でさえ、何かを察知してさっきから無言だぞ…。
「彼方ー。はやく進んでよ。俺入れないじゃん。」
気まずい雰囲気に戸惑っていると、もう1人分の声がしてきて城崎さんの後ろからイケメンが顔をだした。
城崎さんとはまたタイプが違うが、長身で少し長めの髪にきりっとした目鼻立ちをしている。
誰だ?
「…。」
城崎さんは、何も返事せず席の方へ歩いて行った。
「いらっしゃい。彼方の友達かな?」
城崎さんがいなくなって、やっとはっきりと姿が見えたイケメンにカズさんが話しかける。
「どうも。桐谷守です。同じ音大でヴァイオリン弾いてます。」
桐谷さんは、カズさんに笑顔で答えるとぺこりと軽く会釈した。
え、横澤音大って美形の宝庫なの?
それとも横澤音大にいったら美形になれるの?
城崎さんもだけど、この人も相当モテそうだ。
そんなことを考えながらカズさんと話す様子を見ていると、桐谷さんとばちっと目が合った。
「あ、初めまして…」
「初めまして。彼方がよく話してる高校生の子かな?」
「あっ!山本淳といいます!よろしくお願いします!」
ふわりと優しく笑いかけられて、慌ててぺこりと頭を下げて挨拶する。
優しそうな人だ。
「こちらこそよろしくね、淳くん」
桐谷さんは、自然に俺の名前を呼んでウィンクしてきた。
さすがイケメン。
「守」
「はいはい。行きますよ〜」
城崎さんの急かすような声に呼ばれて桐谷さんは去っていった。
城崎さんの友達…。
考えたことなかったけど、城崎さんにも友達くらいいるよな。
彼方、か。
名前で呼び合ってるんだ。
いや、普通だけど。
城崎さんの隣に座った桐谷さんは、慣れた感じで会話をしている。
俺のこと話してたんだ。
俺とはしない話もいっぱいしてるのかな。
そりゃそうか。
年下の高校生と同じ大学の同級生とじゃ、同級生のほうが話やすいに決まってる。
無意識に城崎さんと桐谷さんの方を見つめてしまっていたらしい。
また桐谷さんと目が合ってしまった。
「…あっ。」
城崎さんも桐谷さんの視線に気が付き俺の方を見ている。
しまった。
きもいぞ、俺。
友人に嫉妬してどうする。
硬まっている俺に桐谷さんはひらひらと手を振ってくる。
俺は誤魔化すように会釈すると目を逸らす。
「どうしたんだ?淳?」
不審がる祐介になんでもない、と返してジュースを一気に飲み干す。
稜様はそんな俺を無言で見つめている。
何に気付いたんだろうか…?
稜様は勘が鋭いから後からが恐ろしい…。
あんなに美味しかったはずのジュースは、一気に飲んだせいで後半は冷たさばかりが喉に残って、味はよく分からなくなっていた。
違うことを考えようと思っても、城崎さんと桐谷さんの親し気な様子ばかりが目に入ってしまう。
あーだめだだめだ。
なにウジウジしてるんだ俺。
「祐介っ、稜様っ。そろそろ帰ろうか…?」
このままだと桐谷さんに嫉妬ばかりしてしまうと思い、2人が飲み終わったのを見て声を掛ける。
カズさんに帰る旨を伝え、椅子から立ち上がってドアの方へ向かう。
「淳」
店をでようとドアノブに手を伸ばした時、後ろから名前を呼ばれた。
声の主は、城崎さんだった。
カウンター席で桐谷さんと話していたはずなのに、いつの間にか俺の方を見ている。
「土曜日忘れないでよ。」
なんですか、と聞くより先に城崎さんの言葉が返ってきた。
いつものなんてことない予定の話なのに。
たったそれだけの言葉で、もやもやしていた気持ちがすっと軽くなるのが分かった。
「…はい。」
俺は城崎さんにそう返事だけして店を出た。
土曜日、か。
きっと顔は緩んでいたに違いない。
単純だな、俺。
ほんと城崎さんには敵わない。
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