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〜Yuske's Story〜④
避けられてる。
完全に。
避けられてる。
「……。」
谷センにキスをされた次の日、朝食を食べていると大真面目に謝られ「しばらくは頭を冷やすために会わないようにする」といわれた。
俺はそんな必要ないと何度も言ったが、会わないの一点張りで全く聞き入れてくれなかった。
会わないといっても教師と生徒なのだから学校では必ず顔を合わせる。
だが谷センは一切学校で俺と話そうとはしなかった。
それがまた俺の心をざわつかせた。
なんで頭を冷やすんだよ。
俺は全然嫌じゃなかったのに。
後悔するくらいなら、なんであんなことしたんだよ。
「はぁぁぁぁ〜……」
「大丈夫か〜?祐介。魂抜けてるぞー」
「お弁当が売り切れにでもなってたんじゃない?」
これでもか、と言うくらい大きな溜息をつく俺を見て淳と稜ちゃんが声をかけてくるが、今の俺の頭には入ってこない。
机に頬をべったりとくっつけて脱力する。
なにが駄目だったんだ?
歳が離れているから?
男同士だから?
教師と生徒だから?
好きじゃないから?
全部?
でもそもそも普段誰に対しても冷静な判断を下せる谷センが好きでもないやつにちょっかいだされて、勢いで行動することなんてあるのか?
もしかして谷センも俺のことが…?
それとも嫌いだからわざと?
それとも…
「…だぁ〜〜っ!!くそっ!!めんどくせぇっ!!」
「ぅおっ!?」
「…うるさい。」
感情のままに勢いよく立ち上がると、すっかり油断していた友人が軽く飛び上がるのが視界の端で見えた。
頭を冷やす?
会わない?
そんなの、
(そんなの、納得できねえ!!!)
その日から、俺と谷センの(一方的な)戦いが始まった。
朝の廊下にて。
「谷セン!!」
「はやく教室入れー」
昼の校庭にて。
「谷セン!!」
「パン潰れてるぞ。」
放課後の教室にて。
「谷セン!!」
「仕事が残ってるからまた今度な。」
……
…
「……なぁんでだよ〜〜…」
俺の頑張りはむなしく、谷センには事あるごとに理由をつけて話をはぐらかされてしまった。
ここまでの結果、俺の全敗。
いや、そもそもあっちは俺を相手にもしていないけど。
「珍しく元気ないなぁ〜」
テーブルにべったりくっついて嘆く俺をカズさんがカウンター越しに物珍しそうに見つめる。
「傷心なんすよ〜俺!サービスして下さい〜」
注文したオレンジジュースを酔っ払いのようにがぶ飲みすると、メニューをぺらぺらとめくりながら、これ食いたいっすとカズさんに強請る。
「えー…そうだなあ」
困った顔をしながらも何か作り置きあったかなあ、と考えてくれるカズさんは神だ。
飽きもせず淳が通いつめるはずだ。
「カッさん。そいつのわがまま聞かなくていいから。」
カズさんの優しさに癒されていたら、横から入った容赦ない制止の声で一気に現実に引き戻された。
「城崎パイセン!!冷たいっ!」
「…うるさい。声でかいんだよ。」
ひとつ席を空けて、横に座っているのはイケメン音大生。
顔のわりに口が悪い。
誰だよ?この人が優しいっていったの。
俺はそんな要素感じたことないぞ。
「淳。ここ、ついてる。」
「えっ?っあ、ありがとう、ございます…」
…淳。お前か。
まさにその発言の張本人が、イケメンの隣で恥ずかしそうに座っていた。
てか、態度違いすぎない!?
恋人と知人でそんなに変わる?!
何だよ、その目。
さっき俺のことは蟻ん子を見るような目でみてたのに。
そんで、口についた食べ物とってあげるの?
え、優しいね?
隣でイチャつくバカップルにイラッとしてくるが、今はそんなことはとりあえずどうでもいい。
「城崎先生!」
「…変な呼び方するな。」
嫌そうに顔をしかめられるのも気にせず席を詰めると、腕をがしっとつかむ。
「好きな人に振り向いてもらうにはどうしたらいいですか!?」
「そんなこと自分で考えなよ。」
俺のいま一番の悩みだというのに、言い終わるや否や即会話を終了された。
え、言葉のキャッチボールは…?
「待って待って待って!!なんかアドバイス下さいよ~!先輩でしょ!?」
「…うざい…」
腕をねじって俺の手から逃れようとするイケメンを必死に押さえる。
顔で負けても力で負けるつもりはない。
「相手にされてないって分かってる…でもちゃんと1人の男として、俺と向き合ってほしいんだ…」
普段、滅多にしない真面目な顔で気持ちを打ち明ける。
そうだ。
俺は、谷センが大好きだ。
例え実らない恋だとしても、この気持ちをなかったことにはしたくない。
「……」
城崎(さん)は、俺の腕を解くのを諦めると、小さく息をつく。
「だったら、行動で示せば。」
「こ、行動とはっ!?」
ようやくもらえたアドバイスに対して、身体をのりだして質問したらそんなことも分からないのか、という顔をされた。
口だけじゃなく顔でも毒を吐くんだな、この人。
「どうせ、バカのひとつ覚えみたいに好きだ好きだって言いまくってるんじゃないの。」
「ぐっ…」
「…ワンパターンかよ。バカじゃないの。」
「そ、それ以外にどうしたらいいんっすか?!」
遠回しなのは苦手だ。
だから、どストレートにいってやろうと決めて今まで告白しまくっていたのだけれど。
え、それが原因?
淳の方を見ると、俺はそこが淳のいいとこだと思うけど!って必死にフォローしてくる。
いや、その必死さが逆に傷つくわ。
「欲しいものをただ欲しいっていってるだけじゃ意味ないでしょ。どうしたら手に入るか、考えて行動しないと。」
「具体的に何を…」
「それを自分で考えなよ。…少女漫画でも読んで勉強すれば?」
そう言い捨てると、毒舌王子はまた淳と仲良しごっこを始めた。
あーラブラブでいいですねー。
家でやってくんないかな。
俺は癒しを求めてるんだよ。
結局バカにされた気がするけど、これでもモテ男の貴重なアドバイスだ。
落ち込むのは、性にあわない。
その計画的に行動とやらをしてやろうじゃないか。
当たって砕けろ、だ!!
「よし!!!」
「頑張れ!裕介」
「程々にね」
谷崎と嶋谷の合戦、第2幕だ!!
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