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弟(?)ルートの好感度がMAXだって?

* 「おい……お座り!!」 あれから、何故か本来の《セレスティア物語》には存在しない筈の犬の獣人姿となった(というかアレスとかいう生意気な弟によって無理やりさせられてしまった)俺は、あまりの悔しさで腸が煮えくりかえるような思いを抱きつつも、どういうわけか目の前の高級そうな椅子に足組みしつつ高らかに笑うアレスに逆らうことができない。 そのせいで、不本意にも床に両膝をつけて頭を垂れてしまっているのだが、どうすることもできず――ただ、ただ時間が過ぎ去るのを待つしかなかった。 ____が、どうやら天は俺を見捨てなかったようだ。 トン、トン、トン――と規則的なノック音が聞こえてきて、アレスは慌てて俺のフサフサの尻尾をギュッと握る。 すると、すぐに姿が元の俺の姿に戻った。 この《おかしなセレスティア物語》ゲームの中での本来の姿は、もちろん【ダイニチキュウ・晞京都】での大学生としての青年の姿ではなく、それとは大きく掛け離れた小学校高学年の少年姿でおかっぱ型の白髪にエメラルドのような色の瞳をもつキャラクターだ。 因みに、犬の姿はサモエドのような真っ白な体毛に屈辱的だが赤い首輪がつけられていたけれど、今まで高慢だったアレスが滑稽な程に慌てて俺の姿を人型へと戻した後には首輪はついていない。 「どうぞ、お入り下さい…………」 その、とってつけたようなアレスのわざとらしい猫なで声を聞いて全身に鳥肌がたつ。 (ゲーム内でも鳥肌がたつんだなぁ……) などと、実に些細で馬鹿らしいことを思いつつアレスの方へ仕方なく目を向けると、ついさっき来客に対して猫なで声で返答をしていた奴とは思えないくらいにギロッと鋭く睨まれてしまう。 その直後にジェスチャーだけで『早くオレの隣に座れ』と促されてしまったので、これまた不本意ながらも為すすべもなく《仲のいい兄弟》を演じるために金でできている豪華な椅子へと腰掛けた。 アレスの視線から逃れるべく、ふと目線を落とした机の上には、様々なお菓子がのっているのが見えた。 色とりどりの包み紙が目立つチョコレートに、中に宝石を散りばめたかのような具材が何種類か入っているフルーツケーキ、不揃いな形などひとつもなく、それはそれは丁寧に作られたクッキーなど、《ダイニチキュウ・晞京都》ではあまり食べていなかったものが並べられていて、それらを目にした途端に今目の前で猫なで声を出している腹黒な弟キャラクター【アレス】への復讐ともいえるアイディアがパッと思い浮かんでくるのだった。 「失礼致します。アレス様――ナンダレダ様。あなた方のお父上が、玉座の間にて三十分後に来られるようにと……おっしゃっておりました」 「何だ……ソルージャか。ご苦労様……相変わらず、お前は声が小さいな――まあ、いいや……ところでお前も一緒にお茶するか?今は、お兄様と茶会していた所だったんだ」 部屋に入るなり、かしこまった様で尚且つ容疑は無骨な男を見てピンときた。 セレスティア王国の紋章が入っている紫の軍服に身を包み、ウェーブがかった背中まで届きそうな黒の長髪を一纏めにしている頬に傷のあるこの男は間違いなく《セレスティア物語》に出てくるサブキャラクターのソルージャであり、ゲーム設定的には俺達兄弟(本来は兄妹)の警護を任されている。 (ソルージャに関していえば……パッと見た所はおかしな所はなさそうだ……って____それどころじゃない……早くこの糞生意気な弟に復讐を……っ……) 「そうだ、アレスが言う通り……お前もこっちに来て一緒に茶会をしよう?」 と、ニコニコ顔で言うとソルージャは抵抗するわけでも躊躇するわけでもなく何の疑いもなく此方へとやってきた。 * そして、三人のみという茶会が始まり少ししてからソルージャが目を細めつつアレスのある行動を見て不快そうな表情を浮かべているのに気付いた俺は心の中で『しめ、しめ』とほくそ笑む。 ソルージャは無骨で乱暴なキャラクター設定であり、そのため《セレスティア物語》のアリスからは嫌いとは思われていないまでも苦手と思われている唯一のキャラクターなのだ。 妹キャラクターであるアリスは可愛いキャラクターであるものの、厳格で尚且つ無骨なナリをしているソルージャを本心では苦手としている。それもこれも、ある点を除けば完璧なキャラクターだと設定されているアリスの弱点のせいだ。 「あれ、アレス……チョコレートは食べないのか?」 「え……っ…………い、嫌だなぁ……お兄様――これから、もちろん食べようと思ってたところだよ」 アリスはチョコレートが死ぬほど大嫌いで、本来の《セレスティア物語》でも今のような茶会シーンでは一切口にできないと説明書に書かれていたのだ。 その反応を見るに、このチョコレート嫌いな設定は本来のままなのだろう。 そして、アレスを見張るようにしてジーッと脇から厳しい目付きを送ってくるソルージャを見る辺り、彼もまた本来の《セレスティア物語》同様に《王国に害を成す輩はもちもん食べ物を粗末にする輩も大嫌い》というキャラクター上の設定は変わっていないようだ。 「よしよし、じゃあ……優しい優しいお兄ちゃんが食べるのを手伝ってあげようか?なんたって、大事な弟……だもんな……ほら、あーん!!」 「____っ………!?」 ソルージャに必死で気付かれないように装いつつも、俺にはアレスの悔しい気持ちがよくわかっていた。 だからこそ、わざと敢えて此方も極上の猫なで声で渋々ながら口をあけるアレスの口にゆっくりとチョコレートを入れてやったのだった。

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