「……っ…………と、とても……美味しいです」 厳しい目付きで此方を監視しているかのような素振りを見せるソルージャの手前、アレスは若干涙ぐみながら猫なで声で俺に言ってきた。 それを見るだけで、俺の心はウキウキしてしまう。 その後、暫くは皆で会話をしていながら紅茶を飲みフルーツケーキやらクッキーやらに舌鼓を打ちつつ甘いひとときを過ごしていたのだが、ふとソルージャがカチャリと紅茶のカップを置いた。 その間、アレスは何やらモジモジしているように見えたのは気のせいだろうか。 いや、腹黒で糞生意気な弟(認めたくはないが)のことだからソルージャの機嫌を損ねないように内気で恥ずかしがっている様を演じているだけに違いないと俺は強引にその疑問を納得させる。 「アレス様、ナンダレダ様……ご馳走様でした。我はこれから異国からの客人を招く際の警護がございますので、これにて失礼致します……それでは＿＿＿＿」 警護人らしく深々とお辞儀した後、ソルージャは俺とアレスを残して部屋を出て行った。 「…………」 「…………」 少しの間、沈黙が流れる＿＿＿＿。 「まったく……もっと早くに思い出すべきだったよ。アレス、お前……ソルージャとチョコレートが大嫌いだったんだよな……それにソルージャに叱られることも大の苦手なんだったんだよな……形勢逆転だ！！これからチョコレートをソルージャの食べさせたくなければお前こそ俺のペットに……って＿＿＿＿おい、お前……大丈夫か！？」 これだけ調子に乗って、彼を侮辱するような言葉を言いたい放題しているにも関わらず、相変わらず椅子に座ったままのアレスは何の反応も示さない。 先程、ソルージャが来る前までの彼の様子を思い出せば再び生意気な言葉を俺に吐き出しそうなものだが、それすらもない。 「………っん……はっ…………」 何だか、様子がおかしい＿＿＿＿。 顔が見えないくらいに机の上に突っ伏してしまっているし、体が震えているようにも見える。いくら本来のゲームキャラクターのアリスとは違って横暴かつ生意気で可憐さの欠片もない弟とはいえ、こうまで先程とのギャップを見せられてしまうと急に不安になってきた。 「おい、おい……アレス――お前……大丈夫なのか？どこか具合でも……っ＿＿＿＿」 「お、お兄様…………っ……！！」 さすがに、具合でも悪くなったのかと不安になりアレスに近付いた後、ハアハアと荒く息を吸ったり吐いたりしている彼の肩を掴むと、そのまま軽く揺さぶりつつ尋ねてみる。 すると、ソルージャが来る前までのアレスであれば絶対に呼びそうにない口調で俺のことを呼んだかと思った途端にガバッと勢いよく起き上がった彼の手によって床へと押し倒されてしまい呆然としてしまうのだった。