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☆ 本来のゲームには存在しない筈のキャラクターが現れただって? ☆

唐突に、俺以外の動きが完全に止まってしまったように感じたのだ____。 それを明確に確かめるべく、ふと窓の外に目を向けてみる。 つい先程までは、黄色い鳥が木の枝に止まり羽をバサバサと動かしながら囀りをしていたのが、瞬時に動きが止まり片羽が上がったままの中途半端な状態で、まるで剥製の如く静止してしまっているのだ。 そして、それだけでなく今度は机の上に置かれていて決まった時間に可愛らしい女の子のオルゴール人形が出てくる凝った仕掛けの置き時計にも目を向けてみた。 秒針が、止まったままピクリとも動かない。 (ま、間違いない……っ____やっぱり、このゲーム内の……時が止まってる……) と、俺が自覚してから驚きの声をあげるよりも前に――ある場所に目線を動かさざるを得ない事態となってしまった。 「な、何だこれ……ハートマーク???」 空中にハートマークが浮かび上がっている。しかも、それは眩い光を輝かせながらクルクルと回転しながら宙に浮かんでいるのだ。 (そういえばリアルのダイニチキュウ・唏京都じゃ――そろそろバレンタインデーが近づいてなぁ……まあ、チョコレートなんて貰ったことないけど……) などと、アホなことを考え惨めさにうちひしがれていた俺だったが、どうしてもそのハートマークが気になった。俺以外の周りの風景の時が止まった中で唯一クルクルと回転しながら浮かんでいるそれに好奇心を抑えられなくなったのだ。 バスのボタンを押したがる子供のような心境に陥ってしまった俺は僅かながらの不安感を抱きつつも、謎のハートマークに手を伸ばして触れてしまう。 すると____ 「あ…………あ、会いたかった……っ……!!」 「は、はぁ……っ……!?な、何だよ……お前は……」 思わず、声が裏返ってしまった。 いや、しかしながら――それも当然のことだと思う。 空中に浮かび上がり回転するハートマークに触れたとたん、赤く光を放つハートがひび割れ、尚且つその中から男が現れたのだ。 しかも、その謎の男は呆然とする俺の前に現れるや否や有ろうことか抱き着いてきたのだから。 (な、何だよ……こいつ……ってか誰だよ……こんな奴はキャラクター説明書にも、さっき見たステータス表にもいない筈だろうが……) 「あ、あれ……何だか鳩が豆鉄砲をくらったみたいな……ま、間抜けな顔をしているね?まあ、そんな所もいいんだけど……って、ああ……そうか____ち、ちょっと待ってね?」 そう言うと、腰くらいまである銀髪にエメラルドのような緑色という端正な見た目の謎の男はニコッと穏やかな笑みを浮かべてから部屋にある鏡に向き合う。 「____ΦιβδΨΚΨΛ……ЩШдёЮЭё……」 何やら、鏡に向き合いながら呪文のような言葉を口にする謎の男____。 それは、まるで故郷である《ダイニチキュウ・唏京都》のテレビで放送されているアニメに出てくる敵の魔女が主人公に呪いをかけるシーンでの決めセリフのようであった。 あまりにも、唐突に起きた予想外の出来事についていけない俺は呆然としつつ謎の男が立つ鏡へと釘付けとなっていた。 そんな中、俺を更に驚愕させてしまう次なる異変が起ころうとしているのだった。

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