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ダンジョン内である筈のないイベントが起きただって!?

* * * 「おい……っ……そんなにくっつくなって!!鬱陶しいだろうが……って____ひ、ひゃ……っ……!?」 嫌々ながらも、辺田にせがまれて仕方なしに(本来の設定ならばある筈のない)薄暗い洞窟内に一歩を踏み出したのも束の間、ゲーム世界の中にも関わらず、真っ先に感じたのは《洞窟内に漂う強烈な寒さと閉塞感》だった。 そんな状況を逆手にとってみせるといわんばかりに、ぴったりと身を寄せてくる辺田に対して、怒鳴ったところまでは良かったのだ。 だが、突如として奥の方から吹いてきた獣の唸り声のような風の音を聞いた途端に先程の威勢は何処へやら今度は俺の方が、辺田の腕へとすがりつきつつ情けない悲鳴をあげてしまう。 「へえ……た、只野くんってば____あっちの世界の大学じゃ、ホラーとかオカルトなんか平気って態度してたのに――も、もしかして…………って、まあ只野くんが大好きで堪らないこっちとしては今の状況は天国としかいいようがないんだけどね」 「う……っ……大学生だからって怖がりで何がわるいんだよ!?そんなんで、周りの奴らに迷惑かけたかってーの!!」 狭いダンジョン内では声が、とてもよく反響する。 そんな異常事態の中、口先ばかりの虚勢を張ったはいいものの、正直それで精一杯だった。 とてもじゃないが認めたくないとはいえ、俺は怖い話やそういった所謂【ホラー・オカルト】が大の苦手で、元の世界でも両親に大口を叩いていた。 『一人暮らしなんて全然平気だっつーの。真夜中だって一人でも怖くなんてないんだからな』 ____と、意気揚々と実家から出て行ったものの、夜中は部屋中の電気をつけたままじゃなきゃ寝れなかったし、街頭も人気もろくにない夜の裏道を一人きりで歩くなんてことは天地がひっくり返っても無理なことだった。 とはいえ、俺が通っている大学は何故か、そういう異質なものが好きな女や連中が多かったから無理して付き合わざるを得なかったのだ。 これはおそらくだが、俺は【オカルト好きな男】として偽り続けなくちゃいけない元の世界の生活に疲れきってしまっていたのかもしれない。 そして、心の片隅ではそんな生活が煩わしいとさえ思っていたのかもしれない。 いずれにせよ、辺田がどんなに変態であり尚且つ苛立たしい奴であっても、今は偽りの自分を演じ背負い続けることによる重圧を抱えることがなく、また気軽に接することができる唯一無二の存在であるという点だけは事実だと認めざるを得ない。 「べ、別に………こ、怖がりが悪いだなんて言ってないよ。ぼ、ぼくは……どんな只野くんでも……受け入れるし、あ、あい……愛してるから……っ____」 ふと、今まで散々へらへらとおちゃらけていた態度をとりつつ腑抜けた顔つきで接してきてた辺田が、すっ――と真顔になったかと思うと突如として潤んだ瞳で俺の顔をまじまじと見つめながら恥ずかしげもなく頬を赤らめて言ってきたせいで途端にバツが悪くなってしまった。 そのため、慌てて顔を逸らしてしまう。 「じ、じゃあ……そんな怖がりな只野くんに、とびっきりの……おまじないしてあげる。とはいっても、只野くんは……い、嫌____かもしれないけど……こうするしかないんだ。ごめんね、只野くん……」 ふと、一瞬だけ唇に柔らかなものが当たった感覚が訪れる。 すぐに離れる、柔らかな唇____。 (もう少し、こうしていてくれよ) そんなこと俺はこれっぽっちも思っちゃいないと我にかえる。 そして、狼狽しつつもくっついてきた辺田の体を引き離す。 「お……おいっ……いきなり何してんだ!?」 いつものように、ふざけた態度をとる俺____。 普段通りなら、この直後に辺田の奴は『ご、ごめんね……只野くん?で、でも……これは僕からの精一杯の愛情表現なんだから嬉しいんじゃないかな?』とか、何とか――とにかく辺田の奴にとって都合のいいように俺の感情を上書きされる台詞が聞こえてくる筈だったのに。 「…………」 辺田は、何も答えない。 その時の辺田の悲しみをこらえた顔は、ほんの一瞬見せただけだった。 その直後、突如としてピコンというふざけた音と共に俺の眼前に表示された【散歩という名のデート】という選択肢のメッセージがゆらゆらと蜃気楼さながら揺らめく中で――シャボン玉がはじけるように俺の目の前から姿が――いや、存在そのものが消えてしまったのだ。 あまりにも唐突で、衝撃的な体験をして呆然と立ち尽くしてしまう。 しかし、その直後にもうひとつの選択肢のメッセージが凄まじいスピードで眼前から消え去ろうとしているのを見逃さなかった。 元の世界で幼い頃から意図せず培ってきた《動体視力》が役に立とうとしているのを今までの人生で初めて感じられた。 それは____【アレスと共に過ごす】というメッセージ。 * * *

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