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生意気な弟と二人きりで過ごすイベントだって!?
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(アリス…………いや、あの生意気な弟と共に過ごすだなんて本当なら有り得ないことだ――でも____)
洞窟探索のイベントからあっという間に時が経ち、いつの間にやら日が暮れていて夜になっていた。
いつになく感傷に浸り、開け放たれた窓から闇夜にきらきらと煌めく星の輝きに惚れ惚れつつ、頭では姿形さえなくなってしまった辺田の面影を思い浮かべていたのだが、それも長いこと続かなかった。
つい先程から、元の《セレスティア物語》において声はおろか立ち絵さえ存在しないモブキャラ扱いの王である父と、同じく王妃である母が部屋の扉をひっきりなしに叩きながら騒がしく俺の名前――正確には「ナンダレダ、ナンダレダ……早く此方へ来なさい!!」と二人して同じことを叫んでいる。
理由は分かっている。
俺がプレイする筈だった本来の《セレスティア物語》でも、この強制イベントがあるからだ。
ウキウキ気分でデモ版をプレイした時にも、このイベントは投入されていたから、どうやってもこの部屋から出ざるを得ないことを覚えている。
(つまりだ……このままじゃ何も進まないし、あいつに会うのは嫌だけどここから出るしかないか____)
あいつというのは目に入れても痛くないくらいに可愛い妹キャラクターであるアリスのことでも、ましてや、どうバグったかは知ったことではないが、本来存在する筈のない生意気な弟キャラクターであるアレスのことでもない。
それは____、
「おお、我が息子よ……もう私らでは手がつけられん――何とかして、あの子を落ちつかせてくれ!!」
やはり、文字だけで見るのと実際に喚き声を聞くのとでは鬱陶しさが段違いだ。しかし、そうは思いつつも俺の内心は穏やかだった。
それというのも、ここからのストーリーは特に大事件が起きるという訳でもなく、単に主人公の義理の兄である《あの子》ことソルトというキャラクターが勉強中に世話役兼教師であるモブキャラと些細なことで言い争いをし、打ち負かすといった他愛のないものだ。
それを両親達が大袈裟に喚き散らしているというイベントなだけだから正直言うと、やはりこの部屋から出たくないな――と、一度は考えた。
もしかしたら、このまま時が流れるだけで暫くしたら元の世界に戻れるかも――と淡い(浅はかともいえる)期待を抱いた。
(いや、待てよ……このバグだらけのゲームには本来のセレスティア物語にはなかった筈の選択肢システムがある____)
つまり、今ここで部屋から出て行かないという選択肢を選んでしまえば次に何が起こるか分からないということ____。
このまま何もしないで筋書き通りのストーリーに身を任せるたげのままでは、目の前から突如として消え去ってしまった辺田を救う手掛かりを掴むキッカケを己の手で潰してしまうかもしれないのだ。
更にいえば、最悪の場合――このまま現実世界でDAIVするための装置に一生閉じ込められてしまい、そのまま目を覚まさないままで生涯を呆気なく終えてしまうという選択肢を選ぶことになるかもしれない。
そう思い直したがゆえに、面倒臭さを感じつつもドアを開けて両親と共に次なるイベントの場である食堂へと向かって歩いて行くのだった。
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