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葛藤 Side智哉
咲がなぜ聖輝を気に入っているか俺には分かる。
あの人が持っていた写真に優しく笑う女性が写っていた。
写真でしか見た事がないが咲の母親に雰囲気が似ているんだ。
きっとこの場にあの人がいたら聖輝の事を好きになってしまっていただろうか?
仕事が休めれば一緒に来るはずだったが今は仕事で良かったと内心思っている。
ウェディングドレスを着て咲に笑いかける聖輝は咲の母親に似ていた。
男で可愛くも無ければ綺麗でもない俺を選んでくれて涙が出る程嬉しかった。
だからあの人が愛した人に似ている聖輝には合わせたくないけれど親友を紹介したいという気持ちもある。
まだ数年しか過ごしてないし殆ど家にいないあの人が俺以外を愛してしまったらと不安が募るばかりで醜い自分が嫌になる。
どうして俺は男なんだろう?
けれど男だからあの人と出会えたんだ。
「智哉さん?泣いてるんですか?」
大輝の問い掛けに俺はビックリした。
目に涙が溜まり聖輝と蒼大が涙で滲んで見えなくなっていたのにも気付かなかった。
「2人が・・・2人が幸せに笑うから嬉しくて泣いた。」
「はい、これ使って下さい。」
差し出された真っ白なハンカチ。
大輝の様な真っ白なハンカチだ。
俺はハンカチを受け取ると目頭を押さえて下を向き声を殺して泣いていた。
俺はどれだけあの人を愛しているんだ。
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