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序章2
日常生活に支障がない程度の知識は保有している。なんだかんだ言って花を育てる知識はあるし、花の名前もちゃんと言える。
僕の奇妙なところは僕が僕として生きた証である……謂わば思い出といった類のことを綺麗さっぱり忘れているところだ。
考え込んでも思い出せないし、時間が浪費されていくだけなのであまり悩まないようにしている。けれどやっぱり気になることは気になる。
僕の記憶の欠落というのは、一般人からしたら、おかしいものなのだ。
未就学児だった頃の記憶を三十歳過ぎても覚えている人はなかなかいないだろう。特に印象的なことがない限りは。そこは覚えていなくても不思議ではないのだ。
問題は……俗に青春と呼ばれる頃。つまり高校時代のことなんか、さっぱり覚えていないということだ。
まあそれくらい印象の薄い時代だったんだろうなと捉えているけれど、たまにお年を召した常連さんが語っていく青春時代はとても幸せそうで羨ましい。
店の前を通りすぎていく女子高生だって、そんなに簡単に忘れたりしないだろう。高校からの友達です、と一緒に店に来る人もいる。
僕には、友達と言える人がいなかったのかな。
……ってさっきも言ったけれど、悩んだって仕方がない。僕はこういう性質なんだ。
言うならそう……人が赤ん坊の頃の記憶から順番に記憶が薄れていく時期が、僕の場合は普通の人よりも早くなっただけのことなのだ。
ただそれだけ。
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