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「んっ」 「どうぞ」 口に差されるストロー。 軽く吸いコクリ小さく喉を潤すとゆっくり離される。 小さく口を開くと1口サイズのパンが近付きパクリ食い付いた。 基本食事は周囲の誰かが与えてくれる。 「どうぞ」 席を立つ時の椅子も一人でに動くし、歩く時も誰かしらが手を引いてくれる。 面倒な移動教室の時は毎回相庭がお姫様抱っこで運んでくれる。 最初は毎回違う抱き上げ方だったのだが、コレが一番持ち上げるのに楽らしい。 ふわぁ。眠くなったので目を擦ると 「寝てて良いぞ」 言われたので遠慮なく胸板に頭を預け寝た。 こんな感じで俺は学校でも家と殆ど変わらない生活をしている。 至れり尽くせりで楽だ。 因みに俺の世話を一番してくれている男は相庭剣士(あいば はやと)俺の幼馴染みだ。 父の使用人の息子さんで同じ年で将来俺に仕える事が決まっている為基本一緒に居る。 光の加減で青にも見える綺麗な黒髪と澄んだ黒い目をした男前。 背も高いし筋肉もあるから安心して身を委ねられる。 頭も運動神経も良く基本何でも出来る相庭は絶対将来有望な俺の部下になると確信している。 「沙霧」 軽く揺すられて開ける瞳。 「漸く起きたか」 目を開けると呆れと心配の入り混ざった顔をした相庭が居た。 「大丈夫か?」 言われて気付いたのだが、もう放課後になっていた。 道理でスッキリしている理由だ。 「ほらコレ」 手渡されるノート。 きちんと俺のに書いてある。 「分からなかったら教えてやるから家で勉強しろ」 俺を抱っこしたまま二人分のノート迄取るとかほんっと優秀だ。 ほわぁ。 小さく欠伸をし 「鞄に入れといて?」 再び目を閉じた。 何だろう。今日は何故か眠い。 頭も痛いし、なんだか熱っぽい気もする。 全身が怠くて力が入らない。 次に目を開けた時其処は病院だった。 相庭は俺を家にではなく、病院に連れて来たみたいだ。 いつも家に来てくれる主治医に見て貰い 「はい、コレ。これからは定期的に服用して下さい」 初めて見る薬を貰った。 ん、発情抑制剤? 「何コレ?」 相庭に聞くと 「ほんっとお前人の話聞かないな」 グシャグシャ頭を撫でられ先程の医師の話を説明してくれた。 「何ソレ、面倒い」 どうやら俺はもうすぐ発情期に突入するらしい。 その前兆が今日感じた激しい睡魔と倦怠感と頭痛。 発情期は平均的に中学から始まる事が多い。 通常よりフェロモンの分泌が増え、αだけでなくβ迄抑情させる。 自身も常に発情状態になる為酷い時は誰彼構わず誘ってその欲を発散してしまうらしい。 女性の生理と一緒で、毎月1回1週間程度の周期で繰り返される。 それを抑えるのが今回渡された発情抑制剤。 先程の診察時に飲まされたから、次に飲むのは6時間後。 発情期の間とその前後は1日3回服用なので毎月約10日間この薬を服用しなければならない。 「飲みたくない」 無味無臭の錠剤だったから苦くはないのだが、毎月、それも1日3回なんて面倒な事この上ない。 「あのなぁ、コレ飲まないとお前が危ないんだって。俺もαだし」 どうやら飲まなかったら俺は沢山の男性から狙われてしまうらしい。 Ωは女性と同様妊娠する性別なので望まない妊娠の可能性も否定出来ない。 下手したら拉致監禁されて酷い扱いを受ける事もあるのだと渋い顔で医師に言われ 「…………分かった……」 渋々了承した。 翌日発情期が始まった。 薬のお陰で自分は何も変わらないのだが、周囲は微妙に反応してしまうみたいだ。 「今日の沙霧様いつもに増してお美しい」 「僕Ωだけど沙霧様なら抱けそう」 賛美の声の中にいつもと違う熱っぽさを感じる。 全身をイヤラシイ目で見られ不快を感じた。 薬飲んでてコレなんて、飲まないと一体どうなるんだ? 怖過ぎる。 怯えていたら 「不躾に見過ぎだ。恥を知れ」 波星が俺を視線から遮る様に自分の背で隠した。 俺からは背中しか見えないが、怯える様に顔を真っ青にした人達はあっという間に立ち去った。 一体どんな顔をしたんだか。 気になったが、気にしない事にした。 波星は発情期の間俺を守る役目を任されたらしい。 自分の番は自分で守れと言う事だろう。 だが、絶対に触れない。 触れると薬の効果が薄まるらしい。 なので久々に自分の足で沢山歩いている。 飲食も自分でしなきゃいけないし、抱っこして貰いたくても出来ない。 たった約10日間だけなのだが、今迄散々甘やかされていた身としては不便極まりない。 「永翔?」 ムゥ。 頬を膨らませ不機嫌全開で拗ねていたら 「嫌だろうけど我慢ね?」 優しく微笑まれた。 頭撫でてくれないし、つまらない。 まぁ、触れないから仕方ないのだが、物足りなくて堪らない。 ご機嫌斜めなまま、初めての発情期は終わった。

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