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9 明里が顔を上げると仏頂面の会いたくなかった大嫌いな男が仁王立ちで立っている。 だが迷子になって尿意に耐えている時に出会ったのでどこか少し安心してる明里がいた。 ( 普通なら無視するけど今は緊急事態だから。背に腹は変えられない。) 明里は前にいる男に嫌々頭を下げた。 『 ……トイレの場所を教えてくれ…もう漏れそうなんだ…お願いします… 』 明里は泣きそうになりながら頼んだ。 すると目の前の男はニヤニヤしながら言った。 『 俺の言うことを1つ聞け。そしたら教えてやってもいい。』 明里は必死で考える間も無く答えた。 『 わかった!聞くから!はやく!』 明里は尿意に負けて承諾してしまった。 龍司の顔はニヤニヤした顔からにっこりという効果音がつきそうなくらいの笑顔に変わった。 そして龍司は明里の手を引いて廊下の右手にあるトイレまで連れて行ってくれた。 ( なんだ、意外と優しいのか? ) --------------------- 明里は『 高校生にもなって漏らす 』という称号を獲得せずに済んだ。 『 ふ〜よかった間に合って。』 明里の発した言葉は独り言になるはずだった。 『 よかったな。誰のおかげだろうな。』 急に話しかけられて明里の肩が嘘のように驚きで跳ね上がる。 尿意がおさまった安心感でさっきまでのことを忘れていた。 ( 前言撤回。全然全く1ミリも優しくない。) 『 忘れてないよ。お願いって言っても俺ができることじゃないとダメだから。』 (ほんとはこのまま逃げたいけどな。 だけど恩は返さなきゃダメだ。) 龍司は少し悩んでこう言った。 『 学生は明日ぐらいから夏休みだろう? だから俺にお前の1ヶ月を寄越せ。』 ( いやいや何言ってんの?この人は。無理だろ。てか寄越せとは?お願いって、なんか買え〜とかやれ〜とかパシリ系かと思ってた。) 明里には龍司の言ってることが理解できなかった。 『 俺は高校生に何か買ってもらわないといけないほど金に困ってはいない。お前1人ぐらい余裕で養える。 1ヶ月間俺の家で俺と過ごせということだ。あとお前に拒否権はない。』 『 え。なんでおれが思ったことバレてんの! 』 『 全部声に出てる。この家での用が済んだから俺は俺の家に帰る。 はやく荷物を取って来い。』 ( あーだから鞄持ってるのか。この人スーツのジャケット羽織るとイケメンさが引き立つな……いやいや違うだろ。) 『 無理だって。バイトもあるし、夏休みは小谷の衣装作り手伝わないといけないし。ほかのお願いにしてよ。』 『 バイトは辞めたらいい。手伝いは行ってもいいが事前に俺に言ってからにしろ。お前に拒否権は無いと言っただろう。早くしろ。』 明里は横柄な龍司の態度にイラつき始めていた。 『 ていうか、なんでそこまでしなきゃいけないの? 今日初めて会ったばっかだし、案内してもらったことは感謝してるけどそこまでしなきゃいけない筋合いはない。』 ( なんでおれにそんな執着するんだ?今日会ったばっかりなのに。) 明里はイラつきとともに龍司の行動を疑問に思っていた。 『 お前に惚れたからだ。』 考える明里に龍司は無表情ではっきりとそう言った。

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