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部屋についた明里は適当に冷蔵庫にあったもので昼食を済ませ、課題をやろうと思いリビングのソファの前にあるローテーブルにテキストを広げた。
明里は高校に入ってからいつも学年10位以内はキープしている。しかし英語が苦手中の苦手で順位がこれ以上上がらないのは英語が足を引っ張っているからだろう。いや、絶対に。
明里は嫌いなものは先に潰すタイプなのでまずは英語のテキストから始める。
開始10分で欠伸がこぼれた。
( 全然わかんねーし。数学なら楽しいからすぐ終わるのになあ。昼ごはん食べて眠くなってきた。ほんと今日バイト休みにしててよかったな。龍司さんのこともあるし。なにより眠い……。)
もう一度大きな欠伸をした。
それからもう一度テキストを見つめていると、気づくとテーブルに突っ伏して眠り込んでしまった。
『 …………はっ!どこだ!』
明里が謎の大声を出して起き上がると、明里のことを抱きあげていた龍司と目があった。寝ぼけている明里は目の前の綺麗な顔に魅入ってしまう。
『 わあ……すげー綺麗。』
『 明里?起きたのか。急に叫ぶな、またフラつくぞ。』
龍司は明里の顔を見て嬉しそうに微笑む。
明里はだんだん頭が冴えてきて今の姫抱きされている状況を理解し、ジタバタと暴れた。
『 ちょっ…!じっ…自分で歩けるから!!おろせっ!恥ずかしい!』
『 馬鹿…っ。暴れるな……落とすぞ。あんなとこで寝ていたのが悪い。部屋まで運んでやるからじっとしてろ。』
( なんでお姫様抱っこなのっ……!恥ずかしい!おれは男だし……てか帰ってたんだ…。話しなきゃ…)
『 おいっ……りゅ、龍司さんに話があるんだけど…。』
龍司は少し考えて、明里をその場に下ろす。
そしてスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを左手で緩めた。
『 聞くだけ聞いてやる。』
龍司さんは催促するような視線を投げかけてくる。
『……っ。おれのバイトのことなんだけど……!おれは辞めたくないと…思ってる。おれ一人暮らしで、やめたら生活できなくなるし…やらなきゃいけないこともあるし。』
『 やらなきゃいけないこと、とは? 』
『 ……おれ一人暮らしする前に姉にお金出してもらってて、それの恩返ししたいんだよ。姉ちゃんはそんなのいいよって言ってるけど…おれ姉ちゃんだけしかいないから……』
明里は勢いで誰にも言っていなかったことを言ってしまって色々な気持ちが混ざりあって泣きそうになる。
何故か龍司は明里の全てを受け入れてくれるような気がしていた。
それでも龍司の反応が怖くて俯いてしまう。
明里が下を向いていると少しの煙草のにおいと明里の好きなウッディ系の香水の香りがする大きな体に包まれた。
龍司に抱きしめられたのだ。
明里は何故抱きしめられたのか分からず、最初は身動いでいたが安心してしまって、涙が出てきた。
『 初めて見た時からお前はたまに辛そうな笑い方をしていたな。……お前の過去は無理には聞かない。だが何があってもお前のことは守る。』
龍司の言葉に糸が切れたように涙が出てくる。
『 ……うっ、おれっ…と姉ちゃんは、腹違いの姉弟で…おれは父さんの浮気相手の子供で、おれのほんとの母さんは死んじゃって…姉ちゃんの方の母親に、おれ嫌われててっ…殴られたりとか…あって、それに…父さんからも……変な目で見られたりしてて、おれっ…姉ちゃんしかいなかった。姉ちゃんだけが家族だから…嫌われたくないっ。』
明里は途切れ途切れに今まで自分で殺していた過去を話した。はじめてのことで恐怖で体が震えていたが、そんな明里を龍司は黙ってただ強く抱きしめてくれていた。
( あー……泣いた上におれの不幸話聞かされてめんどくさいよな…やめときゃよかった……。もう1人になるのはやだ、)
『 明里。』
急に龍司に名前を呼ばれて顔を両手で掴んで上に向かされた。
涙でぐちゃぐちゃになっている顔を見られるのが恥ずかしくて
反射的に顔を逸らそうとするが、力で勝てるわけもなく上を向く。
『 なっ……に…んっ……』
明里が返事をしている途中で唇を奪われた。
前の軽いキスと違って、明里が呼吸をするために口を開くと口内に龍司の舌が入ってきた。
龍司の舌は順番に歯列をなぞり明里の口内を貪る。
『 …んっ…や…… 』
部屋の中には深いキスの水音と明里の漏れる声だけが響いていている。
明里ははじめての深いキスに腰が抜けそうになる。
龍司のキスは激しくてその上、気持ち良かった。頭がふわふわして立っていられない。
明里は下腹部がジンジンと熱くなるのを感じた。
( …………もう無理…おかしくなるっ…… )
明里は最後の力を振り絞って龍司の胸を拳で叩いた。
すると明里の唇を貪っていたものは名残惜しそうに離れていった。
2人の唇に銀色の糸が引き、そのキスの激しさを物語っている。
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