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第2話
「ここだ。」
2人が着いたのは病院の敷地内にある中庭の一角だった。
そこには小さな池があり、その周囲には多数の水生植物が植えられていた。
「何だよ。ここに何かあるのか?」
説明もなしに連れてこられた場所がこんなところだとは予想外だった。
この池がこれといって良い場所にもここで何かをするようにも思えなかった。
花が咲いているわけでも、きれいな魚が泳いでいるわけでもないこの場所に意味を見出せない。
「あれを見てみろ。茎の先についているものだ。」
隣にいる拓也が指差した先を見ると、紫色の先の尖った巻き貝みたいな蕾がくっついているのがわかった。
「何だあれ、アヤメか?」
「カキツバタ、俺の好きな花だ。」
海斗は紫色の花……と考えて適当にアヤメと口をこぼしたが、正直花には詳しくない。
ましてや、咲く前の蕾で花の種類などわかるはずもなかった。
「カキツバタは5月に開花する。もうしばらくで咲くだろう。どうだ?楽しみができただろう?」
こんな何もない場所に連れて来やがってとか、そんなに花に詳しいとか女かよとか、文句や軽口を言ってやろうと思ったが、拓也の満足そうな顔を見てそんな気もなくなった。
最初は不満だったこの場所が何故だか居心地の良い空間になり、海斗はわずかに頷いた。
そしてそのまま、しばらく2人でまだ咲かないその蕾を眺めていた。
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