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第5話

「…い……おい!大丈夫か?……また見たのか?」 海斗が青い顔をして唯々ベッドの上でどことも定まらぬ一点を見つめていると、いつの間に入ってきていたのか拓也が心配そうに背中をさすってくれていた。 あの夢を見た直後はいつも喪失感や絶望感に苛まれて思考がままならなくなる。 そして、北極に一人でいるような孤独感を感じて誰かにすがりたく、温もりを感じたくなる。 だが海斗は、求めていたその暖かさに安心感や安堵感を覚えながらも、そのことになぜか少しの不安を感じた。 「……うっせぇな。平気だよ。っていうかおまえまた来たのか?暇かよ。そういうの俺には必要ないからかわいい女の子のところにでも行ってやってやれよ。好きな奴の一人や二人いるだろ?」 だから、海斗は感謝の言葉の変わりに憎まれ口をたたく。 毎度見られる自分の弱さや惨めさにいたたまれなくなって、気遣ってくれる拓也を押しのけ思わずこんなことを口にしてしまう。 本心では、拓也が見舞いに来てくれることはとても嬉しいはずなのに。 「好きな奴は一人だけだ。だが、かわいい女の子ではないな。」 「えっ?」 海斗はただの冗談として言ったつもりで答えなど聞くつもりも無かったし、色事には興味の無さそうな拓也が答えるなど思っていなかった問いの予想外の返答に驚いた。 堅物の拓也が今まで好きな人の話をした事なんて一度も無かった。 「俺の好きな奴はな……かわいいと言うよりも綺麗で優しい……Ωの男だ。」 「ふーん、そうか。どうでもいいけど。」 自分から聞いておきながらさして興味も無さそうに返事をした海斗だが、内心では動揺していた。 失礼な海斗の返事を聞いてもいない拓也は見たこともない柔らかい表情、まるで本当にいとおしい相手を思うような、そんな顔をしている。 それを見た海斗の心に、自分でも理解出来ないぬめり気を帯びた感情が渦巻いていた。

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