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第7話

「お前……外に出るなら上着くらい着てから行け。風邪ひくだろ。」 噂をすると影。 海斗を見つけてかベンチに近づいてきた拓也が自分の上着を後ろから海斗に羽織らせた。 (何なんだよ。この扱いは。そういうのは好きな奴にやってやれよ。) 気恥ずかしくてそう文句を言おうと振り返ったとき、海斗は拓也の顔を見てあることに気づいてしまった。 自分を見つめるその視線が、あの時カキツバタを見つめていたときと同じものだということに。 道理で既視感を感じたはずだ。 海斗自身では気づいていなくても、そういった視線を送る拓也がいつもすぐそばにいたのだから。 だが、海斗はそれ以上に拓也の事を知ってしまった。 拓也が見ているものは自分ではなく、海斗を通してを見ているのだと。 (ああ、こいつの好きな奴って……) しかし、そう考えればすべて納得がいく。 拓也の好きな奴の条件に当てはまるし、何より堅物な拓也が関わってきた人間なんてそれほど多くなく、海斗と空斗くらいのものなんだから。 そして、その二人の違いはαΩということだ。 「……は、はは……あはははははは」 「な!?急にどうしたんだ?」 海斗の口から乾いた笑いが漏れる。 何故だか分からないが、海斗は笑いたい気分になった。 だが、それは決して喜や楽から来るものではない。 いや、海斗は認めたくないだけで分かっている。 自分が拓也のことが好きだということを。 そして、その拓也が愛する人を死なせてしまった自分のことを恨んでいるだろうことを。 「……なあ、俺にしとかないか?」 「は?」 海斗はぴたりと笑うのを辞め、驚く拓也に唐突にそう問いかけた。 「もう空斗はいないんだよ。だったら、同じ見た目なんだから俺でもいいだろ?」 身代わりでもなんでもいい。 海斗は拓也に自分のことを見てほしいと思った。 「ていうか、見た目同じなのになんであいつのことが好きになるんだよ。もさくてどんくさくてのろまで能力がない。あんな出来損ないのΩを。あいつが死んで、逆に良かっ……ぐっ!」 まるで自分の口が自分のものではなくなったように次から次へと止めどなく残酷な言葉が溢れた。 その言葉は海斗自身の心を酷く抉っていくが止められない。 そして、一番言ってはいけない言葉が発せられようとしたとき………海斗は背中に強い衝撃を受けてようやく止まった。 拓也が海斗をベンチに力強く押し倒したのだ。 「お前が!……その言葉を言うな!」 そりゃ怒って当然だ、とどこか他人事のように向かい合うようになった拓也の顔を見上げると………拓也は泣いていた。 「……もっと自分のことを大切にしろよ。俺は全部含めて好きなんだ。……お前のことが好きなんだよ、空斗!思い出してくれ!」 海斗をまっすぐに見て、そう叫ぶように伝えると拓也は噛みつくような口づけをした。 その瞬間、海斗に痺れるような電撃が走り、そして………全て思い出した。 (………ああ、僕は空斗だったのか) あの事故で死んだのはで生き残ってしまったのがだったということを。

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