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第3話

 ◇◇◇ 「……っ、あっ、く……!」  侵入者は腕が立った。片手でサイドテーブルの引き出しを探ったかと思えば、鈍色に光る手錠であっという間に肇の両腕を拘束した。  怯える肇にただのオモチャだとネタばらしし、続けてアイマスクを装着してくる。視界がさらなる暗闇に閉ざされ、にわかに恐怖心を覚えた。  震える体をうつ伏せにして、下半身からパジャマのズボンと下着を取り払われる。 「ビビってんの? ちっせえチンコがますますみすぼらしくなってるぜ」  あからさまな嘲笑を受け、屈辱に唇を噛んだ。 「おまえ童貞? 皮かむりなんか相手にして、あいつショタコンの気があったのか。ドSでホモでショタコンとかどうしようもねえな」 「ちがっ」 「黙れ。勝手にしゃべってんじゃねえよこのビッチが!」  したたかに尻を打たれ、痛みと驚愕に再度息を呑んだ。 「チンコはお粗末なもんだけど、ケツは娼婦もビックリの具合のよさとか? おら、もぞもぞしてねえで腰あげろ」  立て続けに尻たぶを叩かれ、肇は恐怖に震える足を叱咤して腰を持ちあげた。  乱暴な手つきで尻を割り開かれ、狭間が空気に触れる感覚に顔が熱くなった。その場所に視線を感じ、あまりの仕打ちに瞳が潤んだ。 「……なんだ、もっとゆるゆるかと思ったら、もしかしてまだ処女だったのか? いやまさかな。あのクソ手の早い男がベッドに連れ込んだやつを食わねえ理由がない」  男はブツブツとひとりごちながら、乾いた指を肇の慎ましやかな窄まりに差し込んできた。 「ひ、ぃ……った!」 「ん? ちっともほぐれてねえな。夕べはやらなかったのか泥棒猫ちゃん」  ぐにぐにと皺を伸ばすように抜き差しされ、摩擦による痛みに呻き声を漏らしながらかぶりを振る。 「あいつ……佑とはいつからなんだ? オレという恋人がいると知ってて抱かれてるのかよ?」  知らない。肇はなにも知らないし、兄とそんな色っぽい関係になるわけがない。  なにをされるか予想もつかない、いつ男の怒りが爆発するかも知れない状況下、肇はひたすら無言で首を振り続けていたが、男はイライラと舌打ちをひとつ肇の前髪を鷲づかんだ。 「言えよ。どっちから誘ったんだ。どこまでやった?」  顔を近づけているのか、男の荒い呼気が頬に触れた。 「ちが、う……してない、なにもしてなっ……」 「ああっ? じゃあなんであいつの部屋のベッドで寝てんだよ。なんも違わねえだろうが。それともあれか、まだセックスはしてねえとでも言いたいのかよ」  当然だ。今後もそんな可能性は万にひとつも存在しない。  そういう人形にでもなったかのように繰り返し頷くと、後孔に差し込まれた指がグリグリと動かされた。 「いぃっ、やぁ……やめっ」 「嘘ついてんじゃねえぞクソガキが。なんも関係してねえやつがあいつの部屋に入れるわけねぇんだよ。オレが言えたことじゃねえけどな、あの節操なしが自宅に招き入れるってこたぁ、ただのセフレじゃねえってことなんだよ。それともなにか、オレを捨てて手も出さずに大事に飼ってるてめえに乗り換えようって魂胆か? あいつそう言ってたか?」 「ひぃ、いぃっ、ひゃめっ、指やめっ」 「どうなんだよクソガキ? おまえあいつの新しい恋人か? なあ?」 「うぅっ……うう」  頭を振りすぎて首が根元から折れてしまいそうだ。  なんなんだ、この男。兄への執着心が尋常じゃない。下手を打つと殺されそうな勢いで肝が冷えっぱなしだ。こんな頭のおかしい男とつき合っている兄もどうかしている。  とめどなく流れる涙がポトポト音を立ててシーツに落ちていく。つらい。もうやめてほしい。嬲られている尻がすりきれてしまう前に、彼には真相を明かさなくては。 「はな、しを、き……ひぃいっ」  一瞬、後孔を引き裂かれたのかと錯覚した。  うしろを探る指が二本に増やされ、貼りついた粘膜同士をバリバリと剥がすように中で指を開かれたのだ。  痛いどころの話じゃない。全身から冷や汗とも脂汗ともつかない体液が噴き出す。サーっと血の気が引いていき、異物感と気色悪さに絶え間なく嘔吐いた。 「うえっ、ぇ、うぇ……」 「吐くなよ」  外道な男が面白そうに声を震わせた。 「もうさ、なんでもいいよ。おまえみたいなのを部屋に入れたあいつにも腹立つし、当たり前の顔して寝転けてたおまえにもむかつくし、どっちにもダメージ与えられる方法なんてひとつっきゃないじゃん?」  男が嗤う。  昆虫の手足をもぐ無邪気な子どものように、罪悪を感じさせない声で残酷な宣言をくだした。 「おまえのことメチャクチャに犯してやるよ」  そこからの展開は言葉にできないほど壮絶で、肇は気が狂う瀬戸際まで追い詰められた……いや、むしろ気が狂ってしまったからこそ、その後も平然と生きていられるのだろう。  正気ではとてもいられない、最低最悪の一夜が幕を開けた。

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