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第2話・シークレット
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昨夜も遅くまで、バーで知り合った男とホテルの一室で抱き合った綾人 は、やや眠気に襲われながらも家を出た。
綾人が向かう先は、彼が通い始めて二年にもなる国立大だ。
綾人はその経済学部に所属していた。
もうすぐ好きな人に会える。
そう思うと、歩く速度は自然と上がる。
中学や高校とは違い、山の中にある大学は家から電車で二時間はかかる。
そうまでしてなぜこの大学を選んだのかといえば、理由は単純だ。
綾人が恋をしている蝦名 凌雅 が、そこに通うからだ。
綾人と凌雅は都内の高校で知り合った。
勉強や運動神経もさることながら、容姿だって凛々しい彼は常に人の輪の中心にいた。
気がつけば彼を目で追うようになり、高校二年の時ーー念願だった彼と同じクラスになった。
こうして綾人は凌雅に必死に話しかけ、凌雅の親友という特等席を手に入れた。
しかし、綾人の苦悩はまだ続く。
ようやく凌雅とお近づきになれたと思ったら、あと一年で卒業という別れがやって来る。
就職や進学といった運命の分岐点に立たされるのだ。
凌雅の父親は大手貿易会社の社長で、彼はそのひとり息子だ。
当然、凌雅は大学を出た後、父親の会社の後を継ぐことになる。
対する綾人の父親は一般企業のサラリーマンで、母は専業主婦。
彼と自分は住む世界がまるで違う。
そうはいうものの、しかし凌雅への想いを諦めることができなかった。
だから綾人は凌雅と共に偏差値が高いこの国立大を選んだ。
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