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第2話・言えない。

 自分よりも頭ひとつ分高い背。  すらりとした長い手足。  クセひとつない短い黒髪に、ほっそりとした顎のライン。  まだ学生という立場にもかかわらず、落ち着いた物腰。  鋭い目が微笑を浮かべ、漆黒の瞳に綾人を写し出す。  相変わらず彼は格好いい。 「なんだ? 今日も寝不足か?」  気怠そうな綾人を見た凌雅の薄い唇が孤を描く。  その微笑みの効果は絶大で、綾人の胸を大きく震わせた。  綾人の心は、彼の一挙一動に心奪われるーー。  ……凌雅の面影を求めて夜な夜な同性に身体を開く淫らな自分を、彼は知らないーー……。  そう思えば、胸がギュッと締め付けられる。 「……うん」  不特定多数の人間に身体を開く淫らな自分とは違い、どこまでも純粋に自分のことを友人として付き合ってくれる凌雅。  彼を前にするとそれ以上何も言えず、自分という存在が急に恥ずかしくなる。  綾人は凌雅と重なった視線を外し、目を伏せた。 「綾人? 何か悩み事でもあるのか? 俺でよければいつでも相談に乗るぞ?」  彼はどうやら綾人が何かしらの悩みを抱えていると思ったようだ。  大きな手が伸びてくる。  悩みならいつだってある。  しかし、綾人の胸を締めつけているのは凌雅本人だ。  当然、自分は悩みを打ち明けられるはずもない。 『自分は実は貴方のことが好きでした』  告白してしまえば最後。彼は綾人の元から離れ、去っていくに決まっている。

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