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第2話・ただの友人

 凌雅の骨張った大きな手が綾人の繊細な髪を撫でる。  彼から差し出された手をふりほどけない。  優しい撫で心地にうっとりと目を閉ざし、そのまま彼に身を任せた。 (できることならこのままーーずっとこうしていてほしい)  だが、凌雅は自分とは違う。  綾人のことを友人としか思っていない。  傍から見れば、自分の行動がいかに不自然な行為なのかも知っている。  それに時間は刻一刻と進んでいく。  綾人は後ろ髪を引かれる思いで、止めていた足をふたたび動かした。  自然と凌雅の手が自分から離れる。  心苦しい気持ちが胸に広がった。  そんな綾人の心を見透かすように、ふたり仲良く肩を並べて歩く男女の姿が横目に入ってくる。  彼らもおそらく、経済史の講義を取った学生だろう。  ーーいっそのこと、凌雅が恋人でも作れば自分のこの気持ちは消えてなくなるのではないか。  綾人の脳裏にふと無謀な考えが過ぎった。  少なくとも綾人が凌雅を知っているその時から、女子に人気があった。  一日に告白される回数も数え切れないほどあったのを思い出す。  そのたびに凌雅に想いを寄せている綾人は、凌雅が取られるのではないかとどれほど冷や冷やしたか。  ーーそして凌雅が大学生になった今、告白される回数が減ることはないだろう。  なにせ彼は歳を重ねて行くに連れ、男の色香を持ち、さらに魅力的な男性になっているのだから……。 「ねぇ、凌雅は恋人作らないの?」  尋ねてみたものの、けれどそれは自分にとって失言だった。

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