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第3話・付き合っている人
「お前さあ、付き合っている奴、いるの?」
それは突然だった。
講義が終わり、生徒が減っていく中、綾人も講義室から出ようと片付けをしていた時だ。
ふいに凌雅に尋ねられ、綾人は心を震わせた。
もちろん、綾人は凌雅を想っているから凌雅以外の男に乗り換えられるわけがない。
当然、付き合っている男なんていない。
「りょうが?」
彼はいったい何を言っているのだろう。
凌雅の真意とは、いったい何だろうか。
凌雅の考えていることがわからない綾人は返事に窮した。
黙ったまま立ち尽くしていると、綾人の視界に最後の生徒が講義室から出て行くのが見えた。
そこから視線を戻し、ふたたび凌雅を見る。
すると彼は不可解な行動に出た。
凌雅は講義室の前後にあるドアに素早く移動して鍵を掛けるとふたたび綾人の前に立つ。
凌雅とは四年にもなる付き合いだが、彼のこのような不可解な行動は今まで見たことがない。
不安に駆られるのはなぜだろう。
綾人は胸の前で拳を作り、口内に溜まっていく唾を飲み込んだ。
そんな綾人を前に、彼は射貫くような目を寄越すと、薄い唇を開く。
「昨日、お前が知らない三十路男とラブホテルに入っていくのを見た」
「……なん、で……」
薄い唇から吐き出された突然の言葉に、綾人は動揺を隠せない。
心臓が大きく鼓動した。
凌雅の見間違いだ。
それは自分ではない。人違いだ。
そう否定すればいいものの、しかし凌雅に男とホテルに入るところを見られていたショックのあまり何も言えず、頭が真っ白になる。
綾人は肯定するような言葉を口にしてしまった。
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