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第4話・きっかけ

 それでも綾人と一緒にいると不可解な気持ちを抱くことはたびたびあった。  それは彼を目にした誰も彼もがため息をこぼし、熱っぽい視線を常に感じるようになっていた。  そのたびに、連中の目に触れないよう、綾人を隠したくなるような気分になった。  だがそれは弟を心配する兄のような感覚だと、本人は思い込んでいた。  それが間違いだとも気づかずにーー……。  凌雅が綾人に対するその感情が恋だということを知ったのは、ほんの数時間前ーー。  きっかけは昨夜だ。  大学の五限目が終わり、日が沈みかけている頃。  凌雅は自分の勉強にもなるからと、ここ一週間前から新しくはじめた家庭教師のアルバイトの帰り道で、綾人の後ろ姿を見つけた。  見知らぬ男と一緒だったから、てっきり人違いかとも思ったのだが、その日大学で見た彼の服装とまったく同じだった。  同一人物であることは疑いようもない。 「…………」  それにしても、相手はいったい誰だろう。  スーツ姿の男は雰囲気からして社会人で、どう見ても友人には見えない。  年の頃なら三十前後の背の高い男だ。  たしか綾人は一人っ子だと聞いている。  だから一緒にいる相手は兄ではない。  だとすると、馴れ馴れしく綾人の肩に手を回すあの男はいったい何者なのか。  凌雅は綾人が気になり二人をつけていくと、彼らが高級そうなホテルに入っていくのを見た。  ーー恋人の肩を抱くようにして綾人を引き寄せていた男。  ーー何の躊躇(ためら)いもなくホテルに入っていった二人。

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