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第5話・彼が意図するところ
(凌雅、凌雅……)
「っふ、んぅ……っは……」
綾人は差し出された舌を夢中になって貪る。
そのたびに淫猥な水音が生まれた。
まだキスしかしていないのに、彼との口づけだけで綾人の下肢が疼きはじめる。
この続きを心待ちにしていた綾人の淫らな身体は、しかしそれ以上のものは与えられなかった。
「……行ったな」
唇を離し、そう言った彼の意図を、綾人はそこでようやく理解した。
後ろを振り返れば、綾人が引っかけたはずの男がいない。
今はこの場所に凌雅と綾人の二人きりだった。
ーーそれはつまり、男をこの場所から遠ざけるための手段だったことに他ならない。
「もう大丈夫だ。恐かったよな……」
凌雅は綾人の乱れた髪を整えながら静寂を破った。
大きなその手が綾人の頭を優しく撫でてくれてもけっして嬉しくはない。
彼の低い声で我に返った綾人は頭打ちを食らった。
そうだ。
蝦名 凌雅という男は昔からこういう一面があった。
いつも強気で凛々しい彼は一見すると冷たい印象を見られ勝ちだが、その実は世話好きだった。
それを自分はなぜ、今の今まで忘れていたのだろう。
綾人にとって、胸を焦がすようなキスであっても、彼にとっては他愛のない、ただ困っている人を助けるためのなのでしかない。
もしかすると心の奥底では自分とのキスは気持ちが悪いと思っているかもしれない。
だって綾人は普通では考えられない性癖を抱えている。
今日の午前中、自分はそれを痛いほど目の当たりにしたではないか。
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