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第5話・誰にもつとまらない
……ああ、胸が痛い。
息ができないくらい、苦しい。
また、凌雅に蔑んだ目で見られるのかと思っただけで、綾人の心は潰れてしまいそうだ。
「……助けてくれてありがとう。でも別によかったんだ。ほら、僕って誰にでも身体を開く淫乱だし? ーーああそうか、凌雅ももしかして僕の身体が好きになったの?」
それが本当ならどれだけ救われただろう。
凌雅が堅物ではなく、欲望に忠実な人間だったならどんなに良かっただろう。
『身体だけの関係でもいいから付き合ってほしい』とそう言えたなら、綾人はこんなに苦労しない。
だが、実際のところ凌雅はいつだってどんな人間にも対等だ。
だからただ単に身体の相性がいいセックスだったからという理由で綾人を組み敷くことはない。
彼はいつだって気高い王子様のような人なのだ。
だからこそ、綾人は凌雅に恋をした。
彼の身代わりなんて、誰にもできない。
「僕の身体が気に入ったならそう言ってくれればいいのに……」
綾人は込み上げてくる涙を必死に堪え、自らの唇を凌雅の唇に近づけた。
口づけをするために爪先を立てて身を寄せれば、凌雅の手が綾人の両肩を押さえた。
「やめろ!! もう十分だ」
凌雅の拒絶する声が綾人の胸を貫く。
(ほら、やっぱりだ)
ーー女子にも絶大な人気を誇る彼が、いったいどうして穢れた自分に手を出すだろう。
「……そう、だよね。ごめん。汚いよね……」
自嘲気味に笑う綾人の声は裏返っている。
自分がものすごく惨めに感じた。
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