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第三章・重力の楔②
地下の広い空間に鈍い音が響く。芥川の躰は壁に叩き付けられ、血の痕跡を残し地面へと落ちて臥す。
「芥川先輩!」
「下がってろ樋口」
幾ら樋口一葉が芥川の直属の部下であっても、幹部である中也の方が芥川よりも地位は高い。中也の一言に諫められれば其の場で脚を留めざるを得ない。
地面に這い蹲る頭髪を掴み芥川の顔を無理矢理上げさせ、中也は冷静な表情の儘芥川の顔を覗き込む。
「太宰を何処に隠した?」
「……云えぬ」
否定では無く黙秘の選択に、芥川が太宰の失踪に関わっている事は明確だった。中也の見た芥川の瞳は何処か暗く重く、仮令拷問によっても白状しないであろう事は明白だった。
太宰が失踪して半月。ポートマフィアの情報を以ても洗い出せない秘密の場所に太宰が隠されていて、其れが芥川の手に拠るものだとすれば、太宰の場所を知っているのは芥川のみ。拷問にも屈しないであろう芥川の口を割らせる事に中也は手段を選んでは居られなかった。
「……成る程よーく判った」
中也はゆるりと立ち上がる。乱歩と国木田は其の様子を黙って見ているだけで一切口を挟めない儘だったが、中也の周囲に重苦しい空気が取り巻いて居る事は解った。
「俺の権限で手前を拘束する」
「ッ!?」
「太宰の居場所を吐きたくなる迄一切の外出を禁ずる。 何週間だろうが何ヶ月だろうが」
「……そ、れは」
芥川は目を大きく見開く。監禁している太宰の場所は自分以外誰も知らない。仮令一週間で逃げ果せたとしても、食糧も水分すらも与えられない状態で太宰が生きて居られる訳が無い。中也はぎりぎりの状態での心理戦を芥川に持ち掛けていた。芥川の太宰への想いを鑑みれば、一日足りとも太宰の元へ行けぬ事を是とする筈が無いのだった。
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