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第3話

 …めんどくさいなぁ。  短いとはいえない前髪はピンで止めちゃってるし、もう部屋着でいつでも寝れますという恰好してるけど。  まぁ、お隣さんなら気張ることもないか。  無意識にスマホをズボンのポケットに入れ、よいしょっとおっさんみたいな独り言を吐き出して立ち上がった。  お隣さんの家に何か差し入れするのは、日常茶飯事だ。  母さんが多めにおかずを作った時、特売で醤油を買い過ぎた時、大量のスイカを貰った時。  日野さんちのお父さんとお母さんは共働きでいつも遅いから、21時過ぎたくらいに俺か百合亜ちゃんが渡しに行っていた。  週に1回は訪ねているのに、そういえば一度も碧生に会ったことないな。  帰って来てないのか、部屋から出て来ないだけなのか。  ま、どうでもいーけど。  夜風に揺らされながら、何度押したか分からないお隣さんのチャイムを押す。  ピンポーンッと高めの電子音が響いて、何秒か後に家の中からバタバタと足音が聞こえてきた。  訪問客が誰かも確認せず、玄関のドアが開けられる。   「優子さん、これ…」  スイカを差し出した相手がお隣のお母さんでないことは、すぐに気付けなかった。  気付けなかった…というよりは、視覚と脳みそが一緒に反応しなかった方が近い。  中から顔を出したのは、碧生。  風呂上がりなのか、パジャマ姿で肩にバスタオルを掛けていた。  碧生と面と向かって話すのは、何年ぶりだろう。  てゆーか、俺、こんな格好だった。最悪。  一瞬で、周りを取り巻く空気が緊張感を帯びたものに変わる。 「…ひ、久しぶり、碧生」 「なに」  碧生は怪訝そうな表情をあらわに、眼鏡のレンズを通して俺を見た。  そんな目は、見たことない。  なにって、あんたがいない時に俺は何回も此処へ来てるんだけど。  そんな『真昼間の訪問販売』が来た、みたいな顔される筋合いないんだけど。  ムカムカと込み上げる苛立ちを、俺自身も表情に出す。  碧生のその目を睨み付け、まるで喧嘩でも売るような態度でビニール袋を差し出した。

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