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第6話

更に無視しようかと何秒か迷って、結局電話に出た。  受話器から、何分か前と変わらない彼女の明るい声。 『まりくん、どうしたの?いきなり切っちゃって』 「…ごめん、姉ちゃんが来て」 『あぁ、百合亜様か。それなら、仕方ないね』  ふふふっと笑う、彼女。  それすらも苛立ちに火を注ぐのだから、余程俺はイライラしていたよう。  普段は百合亜ちゃんで耐性が付きすぎてるから、苛立ちなんか無縁なのに。  変なの。 「で、なんだっけ」 『なんだっけってひどいよぉ~。土曜のデートの場所決めてたじゃん』 「…そう、だっけ」 『そうだよ~、ね、まりくん何処行きたい?海?映画?』 「…」 『まりくん?』 「…そういや、優樹菜ちゃんって日野碧生って知ってる?」 『ひの、あおい…?』 「うん、俺のクラスの」 『あっ、あぁ、吹奏楽部の人でしょ!クラリネットだかトランペットだか吹いてる…』  フルートね。  碧生は、小学3年から習い始めたフルートを中学でも高校でも続けてる。  それだけは、なんとなく知っていた。 「うん、そう」 『あんまりよく知らないけど、なんか暗い感じの人だよね?』 「…暗い?」 『うんっ、いっつも一人で本読んでるし、友達いなさそう』  …暗い、んじゃないよ。碧生は。  多分、きっと、人と関わるのが苦手なんだ。  昔から、そういうとこすっごく不器用だったし。

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