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第8話

 あははっと乾いた声で笑ったけど、碧生は更に深く俯いた。  しんっと静かな部屋で、指が画面を撫でる小さな音が響くだけ。  しばらくして「…わかった」と消えかかった声がして、ぱたんとドアの閉められる音が聞こえたから、碧生が出て行ったんだなと分かった。  …だって、碧生とは嫌でも毎日会ってるんだから、そのくらいいーじゃん。  俺だって、碧生以外との時間が欲しいよ。  心の中で言い訳をしていたけど、本人には伝えなかった。  それからだっけ、碧生とあまり話さなくなったのは。    …分かんないや、昔過ぎて。  ハッと目を覚ますと、窓から光を照らす太陽は一番高いところにいた。  真っ白の天井は、何秒かたってからここが保健室だったと気が付かせる。  …12時半って、…昼休み?  慌てて飛び起きてベッドのカーテンを開けると、千早先生がサンドイッチを頬張りながらにこりと笑った。 「おはよう、藤井君」 「…おはよう、ございます。…すみません、寝過ぎちゃいました」 「昨日寝てなかったの?ぐっすりだったみたいだけど」 「…すみません」 「学校一のアイドルは、大忙しだね」  クスクスと意味深に笑われて、なんとなく胸のあたりがこそばゆくなった。 「違います。…ねっ、姉ちゃんのいびきがひどくて」 「あははっ、嘘吐きだなー」 「…」 「ま、いーや。報告書は適当に書いといてあげるから、教室戻っていいよ」 「まっ、まじですか」 「君はかっこいーから、特別ね」  美しい千早先生は口端に付いたマヨネーズをペロッと舐めて、脚を組み直す。  ドキッと高鳴る心臓は、無抵抗にとても正直だった。

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