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第9話

 同じ男にときめくとか、俺、欲求不満なの。  でも、仕方ないよね。千早先生はキレイ過ぎるもん。  「ありがとうございました」と深く頭を下げて、保健室を出る。  瞼の裏にモデルなんかよりずーっと美しい顔を残しながら、少し足早に教室へ戻った。 「…っ」  教室のドアを開けた瞬間、目を疑う。  ごしごしと目をこするけど、やっぱりその光景は『ほんもの』のよう。  いつも昼休みはカフェとか食堂に行くから、礼二もヤスも教室にいないと思ってた。  …じゃなくて。  窓際に、ひとが溜まっている。  礼二に、ヤスに、女の子が3人。  囲まれているのは、………碧生?  人と人の隙間から、真っ黒の髪の毛と無表情の横顔と本が見える。  …なんで、碧生にあいつらが話しかけてんの。  てか、なんで碧生なの。  何故か、心の奥の方で胸が「どきんっ」と音を立ててかすかに痛んだ。 「…何してんの」  俺の声に反応して、碧生がピクッと身体を震わせる。  顔も視線も、微動だにしなかった。 「おっ、おかえりー、まり!今日は誰と何発ヤッたの」  ヤス最低ーっと、女の子たちの声。  笑えない俺に、礼二は柔らかい声色で言った。 「おかえり。ご飯食べたのか」 「…何、してんの」 「あぁ、日野君と仲良くなろうと思ってね」 「…は?」

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