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第12話
「楽しかった?碧生」
「…うん」
「良かった、強引だったから迷惑してないかと思って心配だった」
「…平気。…あのひと、少し変だね」
「ヤス?ははっ、馬鹿だけどまじイーヤツだよ」
「…うん。…大きい人もいいひとだった」
「あぁ、礼二ね。あいつは頭いいしクールぶってるけど、優しいから」
「…うん」
「あいつらの名前くらいは覚えてやって。お前のこと気に入ったみたいだから」
「…うん」
ふわりと、春の夜風が前髪を揺らす。
混じって、「…は」と小さな碧生の声が聞こえた。
「ん?」と碧生の方へ目をやると、碧生はやっぱり俯いたまま。
「…」
「ん?なに」
「……、…毬也はいいの」
「なにが」
「……俺が、傍に居ていいの」
なんで、そんなことを言うんだろう。と思った。
この時、俺は碧生に対してしてきたこととかすっかり忘れていた。
前のような関係に戻れる…という表だけの事実に、舞い上がっていたんだ。
「なに言ってんの、碧生。当たり前じゃん」
「…」
「俺と碧生は、幼馴染だろ」
にっこり微笑んで小さな頭を撫でると、碧生は更に俯いて「…うん」と言った。
街灯の頼りない灯りでは、碧生の頬が真っ赤になっていたなんて気付かなかった。
全然、気が付かなかった。
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