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第22話
あっという間に空はもうすっかり真っ暗で、時計の短い針は「8」をさしている。
こんな時間まで学校に居たのは、初めてだ。
碧生…、もう帰っちゃったかなぁ。
咄嗟にスマホを手にしたところで、ラインの履歴に碧生の名前が無いことに気付く。
もちろん電話帳にもなくて、そういえば携帯番号もラインのIDも聞いたことがなかったと初めて思い出した。
…変なの。
知り合った女の子や仲良くなった友達とは、何をするよりも真っ先に交換するもの。
手のひらで繋がっているって感覚が、当たり前の安心感だったのに。
「あー…」と一人ぼっちの教室で小さな唸り声をあげ、重たい身体を持ち上げる。
この時間まで居たんだから、とりあえず吹奏楽部の部室をちらりとだけ覗いてから帰ろうっと。
いなかったらいなかったで、しょーがないし。
廊下はすでに省エネモードで薄暗く、生徒会と野球部くらいしか残っていないだろう程の人気の少なさだった。
まるで『生徒会の一員か、勉強していた出来る生徒』みたいな気分で、ちょっとワクワクする。
先生とすれ違ったら「図書館で本を読んでました」って、キリッとした顔で言おう。
そんな俺の意気込みは空回りで、誰ともすれ違わないまま音楽棟までたどり着いた。
音楽棟はふつうの校舎に隣接している音楽専門の校舎で、2階建ての全室完全防音。
普段普通科の生徒は音楽の授業くらいしか近寄らないし、それ以外は音楽専門コースのひとか、吹奏楽部、合唱部のひとしかいないから、校舎に近付くだけで緊張する。
いつも通っている建物とは違う空気に覆われてるというか。妙にしーんっと静まり返ってる感じ。
…電気付いてるから、まだ練習してるのかな。
何処か吹奏楽部の練習部屋なのかは、わからないけど。
ドキドキとゆっくり速まる心音を感じながら、重たいドアを開ける。
入った途端、どこか遠くの方で知らない曲が聞こえた。
優しいような、それでいて物悲しいような。
とてもとても澄んだ音色。
…教室は防音のはずなのに。
その音に導かれるよう、上へ続く階段をのぼる。
音楽は詳しくないし、音を聞いたからといって何の楽器だ!と言い当てれるほどの耳も持っていない。
それなのに、何故かこの音を奏でているひとはこの人だって自信が有った。
きっと、心の中を音で表すとこんな感じ。
絶対、間違いない。
2階を越えて、屋上手前の踊り場。
その人は、居た。
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