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第26話
バタバタと階段を下りて、家を出る。
お隣さんのチャイムを鳴らしたところで、未だ制服のままだったことに気が付いた。
…ま、いっか。そんなのは、どうでもいい。
「こんばんは、優子さん。碧生帰って来てる?」
さすがは、もう一つの実家といえるだろう。
こんな時間に訪ねても、優子さんは嫌な顔ひとつせずに優しく微笑んでくれた。
「部屋に居るわよ。どうぞ」
「ありがとう!お邪魔します」
意識して、足音を立てずに階段を上る。
部屋に居る碧生が、知らない碧生のままだったらどうしよう。
ドアノブを掴んだ瞬間浮かんだ思考は、とてもくだらないものだった。
「…毬也」
ノックもせずいきなり登場した俺に、碧生は目を大きく見開く。
勉強してたのかな、いつも通りのパジャマ姿で学習机の椅子に座っていた。
それでも俺を見る目はいつもの頼りなさげな視線で、心の底からホッと安心する。
「碧生、いつ帰って来たの」
「…21時半頃」
「そっか。遅かったんだね」
「もう少しで演奏会があるから。…毬也は」
「ん?」
「毬也はカラオケ、行ったの」
ヤスの誘いを聞いてたんだな。
違うよ、碧生。
俺は…碧生と帰れなくて拗ねて、ずっと学校に居た。
碧生のフルートを吹く姿を見て、心臓が苦しくなったんだよ。
改めて考えると、碧生に恋をしている女子のようだ。
…なんて、恥ずかしいんだろ。俺。
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