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第28話

「…毬也?」 「ごめ、…ちょっと深呼吸させて」 「うん」  すーはーすーはー、思い切り胸を動かして空気を吸い込んで吐き出す。  わけわかんない、俺。  「毬也と一緒に帰りたい」なんて、昔からよく言われてたじゃん。  昨日も言われたじゃん。  …今更、何を意識するの。  身体中の動揺を吹き飛ばすように息を吐き出してから、「はははっ」と誤魔化すように微笑みを浮かべた。 「ね、碧生。明日から一緒に帰ろうか」 「え?」 「俺、部活終わるまで待ってるからさ。学校じゃなくても、近くのファーストフードとかで待ってるよ」 「え、でも…」 「図書館とかさ、俺もたまには勉強しないといけないよね」 「…や、ヤス?君とか礼二君は…彼女は」 「あいつらは別に気にしなくていいよ。遊べるときは遊ぶ。彼女は…今いないし」 「でも、…遅くなる日多い」 「いいよ、別に。何時に帰っても母さんは気にしない」  なんで、帰れないと淋しげに言った碧生がそんなこと言うの。  そんなことを碧生に言わせるような態度をしていたのは、俺。  でも、都合の悪いことはすっかり忘れていた。 「…なんで」  碧生の目が、ふるふると小動物のように震える。 「碧生が俺と帰りたいって言ってくれるから」  思わず、碧生を言い訳に使ってしまった。  だって、俺も一緒に帰りたい、なんて言えない。  かまってほしいなんて、女々しい事…。  付き合ってきた女の子には軽く言えたのに、変なの。

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