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第29話

「…でも」 「碧生が嫌なら止める」 「…っ」  俺の言葉に、碧生は首が取れそうなほど大きく首を振った。  ほら、碧生は俺の傍にいたいって思ってる。  遠くになんか行ってないし、行かないよ。  あれだけ激しく動いていた心臓はゆっくりと落ち着いてきて、代わりにあったかい何かで包まれる。  きっと、これは安心感ってやつ。 「あっあとさ、携帯番号とラインのID教えて。聞くのすっかり忘れてた」 「…うん」  *  一緒に、帰っていい?  そう初めて言われたのは、確か中学に入ってすぐ。  小学生の時はそんなこと言わなくても一緒に帰るのが当たり前だったし、そういうものだと思ってた。 「うん、いいよ」  そう答えた俺は心の中で『なんで、そんなことを聞くんだろう』と首を傾げていた。  俺が、遊びを覚えるちょっと前。  今考えてみたら、碧生も怖かったのかもしれない。  中学に入って、女の子に騒がれて、駆け上がるように大人になっていく俺。  今まで傍に在ったものが遠ざかってしまう気がして、怖かったのかも。  そんな碧生の不安を無視して、必死の懇願に目を背けたんだ。  …最低だね。  今やっと気付いたよ。ごめん。  ごめんね、碧生。  きっと、今は俺の方が碧生の傍から離れたくない。  自分勝手で我儘で、ごめんね。

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