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第32話

「…そうみたい」  へへっと照れ隠しに、頬を掻く。  礼二はそんな俺に呆れる様子も諌める様子もなく、にっこりと優しく微笑んだ。  ぶーぶー文句を繰り返すヤスとクールに「明日な」と微笑む礼二に手を振って、碧生と一緒に教室を出る。  とりあえず音楽棟の前まで送って、そこから図書館へ行くのが、最近の放課後コースになっていた。  建物の前。  碧生は必ず立ち止まって、俺と向き合う。  じぃっと窺う様な目で俺の顔を見つめて、毎日同じような台詞をぶつけた。 「…今日は20時に終わる」 「そっかー、今日は早目だね」 「毬也は」 「図書館に居るよ。終わったら、連絡して」 「…ご飯、良かったの」 「ご飯?」 「…ヤス君と」 「あぁ、大丈夫。ヤスはめげない性格だから」 「…行きたかったんじゃないの」 「ううん、行きたくないよ」 「なんで」 「碧生が行かない」 「俺が行ったら行くの」 「うん、行くよ」  にっこり微笑むと、高めの夕焼けに混じって碧生の顔がほんのり赤く染まる。  恥ずかしそうに、下唇を噛んだ。 「…次は、行く」 「行くの?部活のあとに?」  「うん」と大きく頷く。 「毬也は、ヤス君も礼二君も大切だから」 「ん、まあ友達だしね」 「だから、行く」  俺のために。  俺のために、そんなことまで考えてくれるんだ。  本当は、外に遊びに行くとか苦手なはずなのに。  やだな、ほんと…碧生、かわいい。

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