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第33話
「可愛いね」と言いかけたところで、「まりやくんだー」と後ろから女の子の声がした。
振り返ると吹奏楽部の女の子が3人、手を振りながら近付いて来た。
昨日と同じ光景。一昨日も、その前の日も同じ。
最近ではそれが碧生とバイバイする合図になっていた。
「じゃあ、碧生。部活頑張ってね」
「…うん」
女の子と話しながら、小さな碧生の背中を見送る。
風に吹かれた黒い髪が、夕日に照らされてキラキラ輝いていた。
最近、夕方の図書館がとても好きだ。
机に向かって真剣な顔で勉強するかわいい女の子、なんだかよく分からない立派な装丁の本を熟読しているチャラそうな先輩。
普段では絶対見れないようなみんなの顔が垣間見えて、不思議な空間。
にぎやかな学校の中なのに、この場だけ違う空間みたい。
そういう点では、音楽棟とちょっとだけ似てる。
俺はもちろん勉強してるわけでも本を読んでいるわけでもない。
窓際一番はしっこの席に座り、ちらりと見える音楽棟を見つめながら、あのキレイだった碧生の姿を思い出したりする。
そんな思考をふあふあ浮かべていると、気付けばその内寝てしまっていて、碧生からの電話で目を覚ましていた。
こんな時間、めったに味わえるものじゃない。
俺を見つけて話しかけに来る女の子たちも、「しーっ」って微笑みながら人差し指を立てると「ごめんね」って小声で謝ってその場を去って行く。
遠くから物珍しそうに眺められたりもするけど、それはもう慣れたことだ。
ふあぁっと大きな欠伸をして、肘をつきながら窓の外を眺める。
…碧生は、もう練習始めたかな。
そういえば、前に聴いた曲はなんていう題名なんだろ。
あとで、聞いてみようっと。
うつらうつら、眠りと現実の狭間を行き来しているところで、向かいの席に誰かが座った。
めんどくさそうに黒目だけ動かすと、視界にはよく知っている顔が映る。
「…っ!」
思わず、椅子からずり落ちるところだった。
百合亜ちゃんが怪訝そうな表情で俺を見つめていた。
「…どど、どうしたの、百合亜ちゃん。学校で会うなんて珍しいね」
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