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第35話
迷うことなく頷くと、飽きたのか、どうでもよくなったのか、「あっそ」とカバンを持ち上げて、百合亜ちゃんが立ち上がる。
やっと帰ってくれるのか…とホッとしたところで、ニヤリと家でよく見る含み笑顔を向けられた。
思わず、かまえるようにビクッと身体が揺れる。
「…なに」
「毬也、あんたって本当に不器用なのね」
「へ?」
…それ、礼二にも言われたけど。
二人に全く同じこと言われると、さすがに恥ずかしいよ。
「ま、良いんじゃない。そのまま突っ走れば」
「突っ走る?…なに?」
「あんたがふざけた女遊びしないのは、私にとっても都合いいわ」
「なにそれ」
「あんたに振られてグチグチ泣き言聞かされる私にとっては、最高の事態だわってこと」
なんだかよく分からないけど、それはどうもご迷惑をおかけしました。
「…碧生のこと、他の女みたいに軽く扱うんじゃないよ」
「…?うん、」
軽く…?
「ごゆっくり~」と手を振りながら百合亜ちゃんが図書館から出て行き、ざわついていた館内がしばらくしてからいつもの静けさを取り戻す。
俺はまた片肘をついて、いつの間にか紺色に染まっていた外へ顔を戻した。
…変な百合亜ちゃん。
そんなに、俺が図書館に居るのがおかしいのかな。
突っ走るって、なんだろ。
図書館の中を突っ走れってこと?
それって、ものすごい迷惑なんじゃ…。
軽く扱うんじゃないって、幼馴染にそんなことするわけないじゃん。
百合亜ちゃんにとっても碧生は大切な幼馴染だから、心配してるのかなぁ。
…。
ま、いっか。
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