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第36話
手に握っていたスマホがブルブルッと震えて、ハッと目を覚ました。
どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。
机の上には、女の子たちからのプレゼント的なお菓子が並べられており、まるでお供え物のようだ。
「まりくんの寝顔、ゲット☆」とか「起きたらラインしてね」など好き勝手書かれたメモ紙も残されていて、…誰か起こしてよと心の中で苦笑いした。
スマホのロック画面には、20時08分の時計表示と、碧生の名前。
「…もしもし」
「寝てたの」
「ん、寝ちゃってた。終わったの?」
「うん、図書館の前に居る」
「わかった。すぐ行くね」
夢うつつのぼんやりした思考を抱えたまま、大きな欠伸を2回して図書館を後にする。
碧生は、図書館の大きな門の前に立っていた。
空を見つめているのか、顔を軽く上げている。
レンガ作りの趣ある門と、月明かりと、碧生。
なんだか、映画の一幕を切り取ったみたい。
思わず込み上げた微笑みを零しながら声をかけると、碧生は「ん?」と首を傾げた。
「…なんかいいことあったの」
「いや、やっぱり図書館が似合うのは碧生だなと思って」
「…?」
「なんでもない。さ、帰ろっ」
図書館から一番近い門とは正反対の校舎の正門へ向かって歩く方向を変える。
別に誰かに見られたくないとかそういうのではなく、誰かと会ってしまうと一緒に帰ろうという流れになるからめんどくさい。
俺に話しかけてくる女の子は強引な子が多いし、「二人で帰りたいから」と断るのは男同士だし、なんとなくおかしい気がした。
だから、あえて人通りがほとんどない道を選んで帰宅路にする。
碧生は、母親を追いかける子供のようにパタパタと小走りで付いてきた。
碧生が横に並んだのを確認してから、碧生に歩幅を合わせる。
肩の傍に有る碧生の顔は、いつも少し俯き加減だった。
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