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第37話
「…毬也、待たせてごめん」
家に着くまでの間、三回は言われる言葉。
待ってるのは俺の自由でしょ、と何度伝えても同じことを言われるから、微笑んで受け入れることにした。
碧生はそんな俺の笑みを見て少し困ったように視線を泳がすけど、足元じゃなくて俺の方を見てくれるようになるから、それだけで満足だ。
「そういえば、図書館で百合亜ちゃんに会ったよ」
「…へぇ」
「最近百合亜ちゃんと連絡取ってる?」
「取ってない」
「…ふーん、」
なんとなく。
ほんとなんとなく、百合亜ちゃんの話を振ると、碧生の表情が変わった気がした。
暗くなる、…というか、気分が落ちた…ような。
前に百合亜ちゃんの事を聞いた時も、言葉少なめだったよな。
元々口数の少ない碧生だから、はっきりは分からないけど。
心の中に浮かんだその考えは、葉に付いていた朝露がぽたりと一粒だけ水たまりに落ちたほどのわずかな変化だったから、二秒後には忘れた。
深く考える性格でもひとの裏を探る性格でもないから、仕方ないのかもしれない。
移り変わった思考は、「おなかすいた」で「碧生と晩御飯食べに行こうかな」だ。
マックでも誘おうかな…と思いながら正門を越えた時、電柱の陰から女の子が現れた。
一目散に駆け寄り、俺の目の前で足を止める。
「…まりくんっ」
茶色の長い髪の毛を夜風に揺らして、恥ずかしそうな微笑みを浮かべる女の子。
この子は、知ってる。
少し前に廊下で話しかけられて、何度かみんなで遊んだことがある。
…名前はおぼろげだけど、多分電話帳には入ってるな。
それにしても、正門から帰るってこともばれてるのか。
…ちょっと、めんどくさい。
「ん、なに」
「…少し、話せるかな」
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