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第38話

「あー…えっと」  窺うように、碧生の方へ視線を向ける。    碧生は分かりやすいほどパッと目を逸らし、足を動かした。  少し駆け出すような速さで、真正面に伸びた道路を進んで行く。 「碧生っ、待って」 「先行ってる」 「え、いや、ちょっと待ってよっ」  慌てて追いかけようと一歩踏み出すと、少し離れた位置で碧生が気付いて振り返った。  暗いからあまりよく見えないけど、俺を睨み付けているよう。 「碧生」 「その子と帰って」    「…え?」 「その子は毬也を待ってた」 「……うん、でも」 「ずっと外で待ってた」 「…」  毬也の為にずぅっと外で待ってたんだから、その想いに応えてあげて。  碧生の少ない言葉から、そんな気持ちが垣間見えた。  視線を道路へ戻すと、バタバタと一気に走り出す。  …なんで。  なんで、碧生がそんなこと言うの。  俺は、碧生と帰りたくてずっと待ってたのに。  その、俺の思いはどうなるの。  込み上げるのは、自分勝手な苛立ちだ。 「…まり、君」  眉根を寄せる俺に、その子は気まずそうな声を上げる。  この子は、何も悪くない。  それでもこの苛立ちをぶつけてしまいそうな自分がいて、ちょっと怖かった。

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