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第42話
「ごめっ、…」
「毬也?」
「いや、…えっと、…」
「具合悪いの」
「いや、違うよ。……」
動揺した心を一瞬で落ち着かせることは、苛立ちを蹴飛ばすよりも難しい。
ちょっと、待って、碧生。
そんな覗き込むように、俺の顔を見ないで。
…まじで、しちゃいそうだから。
何度も大きく深呼吸してから、なけなしの『正常な理性』で無理矢理微笑みを作った。
「と、とりあえず、碧生は余計なこと考えなくていいからね。俺が碧生と帰りたいんだから」
「…うん」
「さ、帰ろう」
「うん」
明らかにおかしな俺の態度に碧生はきょとんとした顔で首を傾げたけど、あえて気付かないふりをして歩き始める。
動揺と訳のわからない欲情と…色々なものが混じった心臓は、家に着いてもドキドキと五月蠅いままだった。
*
週末、何故か俺の家にひとが集まっていた。
ひとといっても、碧生、ヤス、礼二の三人。
きっかけは、数学の先生の突然の宣言だった。
「月曜日の小テストで80点以上取らないと、来週の放課後はずぅっと補習!」
うちの高校は超進学校だから、こういうのはよくあること。
普段は校則すら緩めの学校だけど、いざというところで厳しくなる。
夏休み無しで補習とか、平均点90点になるまで帰れないとか。
礼二は頭が良いからそういう突然の事態にも器用に対応出来るけど、ヤスと俺はさすがに必死にならないと無理なレベル。
先生の言葉に「ま、どうせ碧生待ってるし補習になってもいいかな」と思っていたのだけれど、ヤスは違ったよう。
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