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第51話

「…毬也」  おずおずと手を伸ばされて、碧生の手が俺の頭の上に置かれた。  やわやわと、いつも俺がするように不器用な手つきで頭を撫でられる。  少し、背伸びをして。  …碧生。  ぐぅっと込み上げたのは、さっきまでの羞恥ではなかった。  痛いけど、苦しいけど、…温かい何か。  …やだな、碧生。  泣きそうになっちゃうよ。 「…なに、碧生」 「行かない」 「ん?」 「毬也が嫌な場所には行かない」 「…」 「毬也が行かない所には行かない」 「…あお」 「俺も、毬也と一緒にいたい」 「…」 「毬也から離れたくない」  碧生は、はっきりと落ち着いた声色で言った。  俺から視線を一度も外さず、射抜くような眼で。 「…っ」  …これが、碧生?  やっぱり、小さな頃とは違うや。  こんな碧生は知らない。  昔の碧生は、こんな顔しなかった。  こんなこと、絶対に言わなかった。  碧生はこんなに、俺のことを真っ直ぐ見てくれるようになっていたんだ。  嬉しいな。  それに比べ、俺は。  ほんとうに、情けなくて何も成長していない。 「…ありがとう、碧生」 「…」 「コンビニ一緒に行こ。アイス買ってあげる」 「……毬也、」 「ね?」  頭の上に置かれていた手をそぉっと外し、優しく微笑みかける。  碧生は小さく頷いて、にっこりと笑った。

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