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第52話

 それから、ヤスと礼二は何か深く聞き出すこともなく、俺の変だった態度をアイス一つで水に流してくれた。  そのまま何時間か(ヤスが)勉強をして、碧生が聞かれた問題を不器用に教え、礼二は本を3冊読み切って、夕方になった。  俺は誰にもばれないように碧生を盗み見しつつ、心の整理をしていた。 『毬也から離れたくない』  碧生の真剣な眼差しが、心にぐさりと甘い矢のように突き刺さって、ドキドキ意識する。  …どういう意味なんだろう。  と、考えてみて、あぁそういえば俺も碧生に言ったな、と思い出す。  …俺も、碧生から離れたくない。  俺の『離れたくない』は、欲望まみれで。  一緒に居たい。ふたりで居たい。独占したい。  抱き締めたい。キスをしたい。  …やっぱり、この感情って。  でも、碧生は…?  男同士だし、…キスしたいなんて、思う訳がないよね。    ただ単に、幼馴染として『離れたくない』って意味だよね。  中学の時に離れてしまった俺に対して、もう離れないでってことだよね。    深い意味は、ないはず。  多分、絶対。   「おっじゃましましたぁ~!ひのっち、まじでありがとうなぁー助かったぜ」 「…うん」 「お邪魔しました。じゃあ、毬也、碧生君また明日」 「ばいばーい」  百合亜ちゃんが帰宅してすぐ、ヤスと礼二がそそくさと家から出て行く。  何度か百合亜ちゃんと鉢合わせしたことがあり、いつも怒られてしまうからか妙に気を遣っているようだ。  ま、礼二が百合亜ちゃんが好みだと言っても「顔」というだけで、芸能人の好みと同じ感覚らしいし。  美人過ぎて絶対に彼女に出来ない、と訳の分からないことを言ってたな。  …俺にはその感覚はよく分からないけど。  「あら、もう帰っちゃうの?また遊びに来てね」と天使の笑顔で微笑みながら百合亜ちゃんが手を振る。  二人は少し鼻の下を伸ばしながら「また来まーす」と深く頭を下げて、自宅方向へ帰って行った。

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