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第53話
バタンと部屋のドアを閉めた途端、碧生との二人の空間が訪れる。
いつもと変わらない、俺の部屋。
床にファッション雑誌と昨日脱いだ制服が散らばっていて、百合亜ちゃん好みのお香の香りがするプライベートな空間。
さっきまでヤスと礼二が居た空間。
今は、碧生が一人。さっきと同じ場所に座って、俺が話し始めるのを待っていた。
あれ、俺、碧生と二人の時っていつも何を話してたっけ。
心臓だけがドキドキ五月蠅い。
今までは、彼女と部屋で二人きりになったって、こんなに緊張したことはなかったのに。
なんとなく少しだけ距離を取って、ベッドの端へ座る。
「…あー…、碧生、ありがとうね」
「…何が」
「んと、ほら、ヤスに勉強教えてくれて」
「あぁ、うん。…」
「ヤスどうだった?試験通りそう?」
「……多分」
「あははっ、あいつ進級試験もいっつもスレスレだから怖いよねぇ」
「…」
俺の言葉に、碧生は露骨に不安そうな表情を出した。
碧生は、俺の前だと表情がコロコロ変わるから可愛い。
また欲望っぽい感情を意識しそうになったから、必要以上に「あははっ」と笑って自分自身を誤魔化す。
「だいじょぶだいじょぶ!ヤスの成績が悪くて補習になったって、碧生のせいじゃないよ」
「…毬也は」
「俺?俺は、…んー、多分ギリギリ受かるよ。古賀ちゃんそんな変な問題出さないしね」
「…」
「そうじゃない」と碧生は、小さく首を振った。
「ん?」と軽く首を傾げて、聞き返す。
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