「…毬也は、大丈夫？」 「なにが」 「……さっき、おかしかったから」 　突然部屋を飛び出したこと？ 　電柱にもたれかかってたこと？ 　君に、作り笑顔を浮かべたこと？ 　嬉しい言葉を言ってもらえて、単純なまでに一瞬で機嫌が良くなったこと？ 　…うん、全部だよね。 　碧生は鋭いし、いつも俺のことを見てるから、気付かないはずないよ。 　俺は、多分大丈夫じゃない。 　 　でもそれを言ったところで碧生がより一層困ることを分かっているから、にっこりと微笑んだ。 「大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」 「…」 「碧生はさ」 「うん」 「……どんなひとが好みなの」 「え」 「ほら、さっきヤスも言ってたけど。…そういえば碧生のそういうの聞いたことなかったなと思って」 「…」 　…俺って、ほんとばか。 　なんで、…いくら話を逸らしたいからって、自分の首を絞めるようなことをいちいち聞いちゃうんだろう。 　でも、きっとこういう時に出てくる言葉って無意識で。 　俺は心の何処かで、碧生の好み…とか知りたいと思ってるんだな。 　みんなの前ではあんなに聞きたくない話だったのに。 　碧生は一瞬きょとんと大きく目を見開いた後、本気で考えるように眉間に皺を寄せ俯いた。 　その間が、死刑宣告の前みたいで、心音が体中にどくんどくんと激しく響く。